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商店街研究会 6月例会報告

城南支部 塩沢 秀人

商店街研究会の6月例会は、中野駅南口に5月に完成した再開発ビル「ナカノサウステラ」を視察しました。ご案内いただいた吉田稔夫氏は「中野南口駅前商店街」の前理事長で、現在は再開発に地権者として参画し、「中野二丁目地区市街地再開発組合」の理事長に就任されています。
今回の視察で私たちが着眼するべき視点は、商店街の沿革や変遷、法定再開発(第一種市街地再開発事業)の仕組みなど与件的な事柄から、地権者ないし商業者として再開発へのご自身の関わり、そして再開発に伴う商店街の課題などまで、多岐に及びました。商店街の概要や再開発の全体像については、ネット検索でおおよそを把握できます。ここでは、特に施設見学とご説明でわかった当地の実情について、吉田氏のご説明をもとに整理してご報告し、後段で感想や所見を添えたいと思います。

  1. 共同ビルを含む再々開発計画の実現
    中野駅南口のバスロータリーの前には、これまで地下1階・地上7階建・延床約4,000㎡の商業ビル「ノイビル」が建っていました。吉田氏によれば、「南口の地権者36名が1994年に共同で建設したビル」で、今回の再開発に伴って取り壊されました。「共同化を一度経験して、敷地共有や区分所有の仕組みを熟知していたので、今回の再開発をすんなり理解できた」、また、「ノイビルは約30年で建設資金を完済していない状況にあって、“再々開発”を行っても負担が重くならずに賃貸採算を確保できる見通しが立ったので、地権者の合意形成が順調に進展した」のだそうです。調べてみると、当地では2015年に中野区が地区計画を決定して、2018年に市街地再開発組合が設立、翌年に再開発の権利変換計画認可および着工に至っています。国土交通省のデータでは、全国の再開発の都市計画決定から権利変換計画認可までの所要は平均5年となっていますから、当地の場合は比較的速い進捗だったことがわかります。
  2. 中野南口駅前商店街
    中野南口駅前商店街は、中野駅南口の中野通りの東側一帯にあって、「駅前」「ファミリーロード」「南口本通りアーケード」の3ブロックで構成されているところ、ノイビルを含む「駅前ブロック」が再開発エリアになりました。「桃園地域であることに由来して、隣接商店街とともに、“桃の花プレゼント”や、“南口わいわいまつり”などを開催していたものの、コロナ禍で行われなくなっている」とのことです。吉田氏は私たちを“丘の上のひろば”へ案内してくださった際に、「商店街のイベントの広場としてぜひ利用したい」と語っていました。
  3. 「ナカノサウステラ」とその商業区画
    再開発エリアは、駅寄りの街区が「ナカノサウステラ」の総称で、オフィス棟、住宅棟、「丘の上のひろば」で構成されています。地権者のうち東京都住宅供給公社は、南側の別敷地の街区となっています。再開発エリアの東側は傾斜地で、再開発ビル2階のテラス広場から後背地へペデストリアンデッキが設置され、駅への往来にビル内を通行する歩行者動線が確保されています。
    吉田氏によれば、権利変換計画における床配分は、「店舗床を地権者がすべて取得し、住宅床の取得を希望して居住している地権者も若干ある。参加組合員たるデベロッパーはオフィス床と住宅床を取得し、住宅は賃貸用となっている」とのこと、なるほど再開発の公開情報によれば、参加組合員負担金が多額である一方、保留床処分金が「0」となっています。
  4. 吉田氏が語った実情と懸案
    「店舗床は自ら営業するよりも賃貸収益の確保にメリットがある」とのこと。小売業やサービス業から不動産賃貸業へ事業転換した中小企業や個人事業主と解することができます。なるほどテナント銘板によれば、出店者の多くはナショナルチェーンの店舗でした。
    さて、吉田氏によれば、「地権者はノイビル運営の時代以来、賃貸管理会社を経営しているものの、今回の再開発では“残念”な経過」があって、「出店テナントにまだ商店街に未加盟が多い」とのこと。多くを問い質しませんでしたが、“残念”とはおそらく、店舗床の賃貸や運営管理について、地権者意向の反映や参加組合員との連携に、制御できない限界を感じたのではないかと察しました。
    「再開発で現在バスロータリーの拡張工事を行っており、完成すればファミリーロードへの来る人が減るのではないかが心配」とのこと。確かにロータリーが拡がれば、駅からファミリーロードへの歩行者動線は、大きな曲線での迂回になって、本通りのアーケードの方へシフトしがち、さらに、再開発エリアの南東側と駅との往来に、これまでファミリーロードを通行していた人でも、今後はペデストリアンデッキが利用しやすくなるかもしれない、したがって再開発ビルの正面からファミリーロードへの誘引が懸案と理解しました。
  5. 中小企業診断士として今回の事例から留意しておきたいこと
    都市再開発法に基づく市街地再開発には、①街路など公共施設の整備、②細分化された土地の一体的で有効な利用、③密集地の不燃化や防災、④商店街や駅前の賑わい創出、といった目的があるとされます。また、地権者にとって基本的に資金負担不要の仕組みで、各種助成(交付金・容積割増し・税制・融資)があって、単体では建替え困難な建物を更新できるといった利点があるともされます。したがって、私たち中小企業診断士は、行政の意向も踏まえると、古き良き時代から愛顧してきた商店街の新たな展開を情緒的に語るだけではもはや済まないし、商店主や商店街との関係はもとより、地域企業や個人事業主との関係から関与する局面があり得るでしょう。今回の事例での見学と吉田氏のお話には、気づくところ、感じることが多々ありました。
    オフィスや住宅は別として、新たな商業集積として気になった所見は、①駅に近く視認性に優れる1階がオフィスのエントランスである(商業的な賑わいを創出する意図を感じられない)、②店舗ゾーンがオフィス棟2階と住宅棟1階に分離され、集客力を高めていない、③ゾーニングやテナントミックスの方針が不明確で、限られたテナントに類似業種が存在する、④駅近の定番テナントである食料品SMがない、⑤ファミリーロードや南口本通りアーケードへの連続性や一体感がないなどです。安定した賃貸収益を得られても、吉田氏が“残念”と語った背景は、このような感想ではないかと思いました。
    店舗床は参加組合員の取得ではないので、おざなりに計画された経過があったのではないかと邪推します。施設全体の建設計画は、通常は参加組合員や再開発コンサルタントが素案を作成します。図面を提示された時点で後戻りできなかったのかもしれないし、専門性を有さない地権者が意向を反映したくても、適切な代替案を主張できなかったのかもしれません。また、地権者から賃借して入居したテナントに商店街に加入してもらうには、賃貸借契約時点で仕組みを確立しておかないと容易でないでしょう。これも賃貸管理者が地権者をサポートしていなかった可能性を感じます。
    参加組合員や再開発コンサルタントには、地権者に寄り添う心構えをもって、商店街や商店はもとより、駅利用者や来街者の利便に配慮した施設の計画・建設・運営を責務としていただきたいと思っています。

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