診断士にも少し役立つ市街地再開発に関する知識
商店街研究会6月例会では、中小企業診断士、再開発プランナーである塩沢秀人氏を講師に迎えて同氏が長くかかわってきた市街地再開発についてのお話をお聞きした。
1.再開発について(再開発 = 共同建替え)
権利者にとっては、建替えることで建物を新しくするとともに、土地を有効利用する建替えを行う。多数の権利者が共同で建替えを行うには、合意形成を要する。
行政にとっては、建替えを進めことで、街路の整備や建物の不燃化を図れる。駅前や商店街の整備により新たな賑わいの創出もあり得る。
都市整備の観点から見た再開発は、都市再開発法上の再開発=「市街地再開発」「法定再開発」 第一種市街地再開発事業,第二種市街地再開発事業と、「任意の再開発」「広義の再開発」 既成市街地の再整備手法全般がある。
2.法定の「市街地再開発」の特徴について
再開発の目的:街路など公共施設の整備、細分化された土地の一体的な有効利用、密集地の不安解消のための不燃化、商店街や駅前の賑わい創出などになる。
再開発の目的に沿って地権者らが共同で建替えを行う。地権者には基本的に資金負担が不要な仕組みで、各種助成(交付金・容積割増し・税制・融資)があり、単体では建替え困難な建物を更新できるメリットがある。
法定再開発の場合、全員の合意が得られなくても、半ば強制的に実施できるが、合意形成に時間がかかり、特に地方都市では、保留床が売れないと採算は厳しく、補助金、保留床の取得では地方財政の影響を受けやすいため行政に床を購入してもらい図書館などの公共施設を建設する。
3.再開発における権利変換について
再開発で生まれる敷地と床には、権利床:もともとの権利者に与えられる部分と保留床:権利床以外の部分がある。
4.資金収支から見た再開発の構造 ※第一種市街地再開発事業の場合
支出は、①補償費(転出補償費、明渡補償費、減収補償費、仮住居費など)、②建設費(計画費、地盤調査費、土地整備費、建物除却費、設計費、建築費など)、③支払利息の3つからなる。収入は、保留床、処分金、道路などの整備金、補助金からなる。再開発で生まれる権利床、保留床があり、保留床処分の成否が、再開発事業全体の成否を左右し、保留床の処分先(売却先)を確実にすれば、事業リスクの低減が可能になる。
5.市街地再開発事業の流れについて
①初動段階:勉強会・協議会が発足し、②準備段階:準備組合の発足、都市計画決定、組合設立認可・事業計画認可、③実務段階:個別協議・転出申し出、権利変換計画認可、権利変換期日、④工事段階:工事着手、工事完成・保留床処分、⑤清算段階:事業清算・組合が解散して、再開発事業が終了する。
6.市街地再開発事業の種類
第一種市街地再開発事業と第二種市街地再開発事業があるが、第一種がほとんどで、その内容は、権利変換(等価交換)方式で実施、仕組みは、地区内すべての土地・建物(従前資産)を、再開発ビルの床に変換する。施行者は市街地再開発組合が多い。
7.市街地再開発組合(構成員,準備組合との違い)について
第一種市街地再開発事業の場合、市街地再開発組合は、保留床取得予定者を「参加組合員」として定款に定めることができる。市街地再開発組合の構成員は、組合員:区域内の宅地の所有権者または借地権者のすべてと、参加組合員:組合員となる権利はないが保留床取得予定者として定款で定められ、組合員と共同で事業を行う者、をいう。
市街地再開発組合は、①第一種市街地再開発事業の施行者(事業主体)になり得る組織、②「都市再開発法」で定められた法人、③設立には地権者のうち5名以上が発起し、地権者の人数および地籍のそれぞれ3分の2以上の同意が必要(組合設立要件)市街地再開発組合員の資格は、①土地の所有権者、借地権者=権利者(=地権者)が組合員、②組合が定款で定める参加組合員は保留床取得予定者になる。③借家権者は権利者ではないため組合員にはなれない。
準備組合は、①市街地再開発組合の設立を準備する地権者による任意の団体、②「組合」の前段階の組織として、組合同等の組織運営が行われ、都市計画決定や組合設立などにあたり地権者の窓口対応の役割を担う組織になり、市街地再開発組合とは異なる。
8.最後に
今回の講義は、再開発について地権者の意思決定の時期や選択肢、権利変換の仕組みなど、地権者個々にとって重要な内容に関する解説だった(法律や制度、行政のHPなどの掲載とは別の視点だった)。
中心市街地での再開発は今後も盛んに行われていき、旧来の自然発生的な商店街は大きく形を変えていくと思われるが、今回の例会での知識が大いに役に立つと考える。
城西支部 鈴木 隆男