【特集】2022年版企業評価システムについて
企業評価システム実践研究会
原崎 崇、栗原 利正、小早川 岳洋、小澤 英治、重冨 剛志
https://kakuduke-ken.jimdofree.com/
<企業評価システム実践研究会のご紹介>
中小企業が継続的に発展していくためには、自社の今ある姿を正確に把握し、強みを伸ばし弱点を克服し、将来のあるべき姿を描くことが求められます。しかし、その必要性は認識しつつも実際は日々の活動に追われ、あるべき姿を顧みる時間的余裕の少ない経営者が多いのが現状です。
企業評価システム実践研究会(以降、当研究会)は中小企業診断士としてこの状況を改善するため、経営者に理解し易く、会社の評価に最適な要素を抽出して構成された機能的な「中小企業の経営革新のための評価システム」(以降、企業評価システム)を開発し、自らも実践し、そして広く展開する事を目的として、1999年10月に企業格付け研究会として発足しました。
現在、当研究会は企業評価システムを用いた企業診断を行いながら、社会・経営環境の変化に対応できるようにシステムを継続的に改良し進化させています。
<企業評価システムについて>
1.企業評価システムの成り立ち
当研究会は、経営資源の3要素であるヒト・モノ・カネを評価のベースとし、業種別に製造業、卸・小売業、サービス業版の企業評価システムを作成、公表しました。この知見をベースにして、社団法人中小企業診断協会(当時)からの依頼により、同協会編の「中小企業の評価・診断・支援」(2004年5月)の執筆に協力しました。
その後検討を重ね、2012年12月には製造業、流通業、サービス業のそれぞれの業種に対応した企業評価システムを作成しました。このシステムを更に強化・改訂し、2017年には全業種を対象とした企業評価システムを完成させました。そして、今般、現在の社会・経営環境の変化に対応すべく2022年版の企業評価システムを完成させました。
本論文では2017年版および2022年版の企業評価システムについて紹介いたします。
2.2017年版企業評価システムについて
本システムでは、ヒト・モノ及びカネについて以下のプロセスで評価します。
◎ヒト・モノの評価プロセス
◎カネの評価プロセス
本システムの特長は次の通りです。
1) 定性項目の定量化
本システムは、ある程度企業が軌道に乗り組織も相応に整備された企業をモデル・対象としました。評価項目は厚く全方位に経営課題を洗い出し、評価できるようにしました。ヒト・モノなどの定性的評価項目は5段階に数値化し定量評価することを目指しました。
具体的には、”5(十分出来ており成果が上がっている)、4(十分出来ている)、3(普通のレベル)、2(出来ているが不十分である)、1(出来ていない)”としました。
2)エクセルにインプットし報告書まで完成可能
評価のプロセスで多くのデータを扱う必要があるため、手間・時間の削減と評価過程でのミスを排除できるよう、Excelベースでプログラム化を図り、短時間で正確に評価ができることを目指しました。
【企業評価システムのインプットメニューと報告書サンプル】
3)評価基準の明確化
評価に偏り・抜けが無く、企業全体の状況を体系的に把握できる構成としました。また、評価基準を明確にし、誰が評価しても同じ評価となるようにしました。
ヒト・モノのヒアリングシートでは、評価指標ごとに「経営者への具体的質問内容」、「ヒアリングのポイント」、「着眼点」を明示し、評価者の経験等に影響されない客観的かつ公平な評価を目指しました。
カネは定量評価(比率分析)で判断されるケースが多いのですが、本システムでは、定性部分を客観的に評価できるよう工夫し、企業財務に関する実態を総合的に評価、判断できるようにしました。
4)全業種への対応が可能
5つのモデル業種を設定しましたが、企業の業態が多様化するなかで、業種・業態、規模等に応じた戦略項目と評価指標の抽出が可能で柔軟に活用できるシステムにしました。
3.2022年度版企業評価システムについて
1)これまでのシステムにおける反省点・改善点
2017年版企業評価システムの完成後、実際に企業の経営革新に寄与すべく企業評価を手掛けてきました。本システムで評価を行った企業は製造業から小売業まで幅広い業種におよびましたが、企業規模は10名に満たない企業が多く、なかには数名の小規模企業も含まれていました。
本システムを小規模企業に適用とすると、企業評価は”3(普通)”以下の厳しい評点となるケースがほとんどでした。小規模企業はまだ発展途上であり初期投資費用や借入金負担などから財務状況は芳しくない例が多く、また、日常業務に追われるなかで組織や体制の整備まで手が回りません。そのため、本システムで評価を行うとどうしても評点は低いものになってしまいます。しかし、特に新規参入し開業間もない個人企業などは、その進取的な起業意欲、経営に対する情熱や八面六臂の経営手腕など大いに評価されるべきです。
小規模企業は保有する経営資源が乏しいうえに、厳しい経営環境のなか、存続の危機に脅かされていることが少なくありません。そうした状況下、本システムによる客観的ながらも厳しい評価を提示されると、経営者のなかには本システムの評価だけでなく、改善提案も受け入れていただけないことがありました。当研究会と初対面の経営者間に信頼が十分に築かれる前の厳しい評価・提案は、経営者が本システムによる改善案を理解するも、経営資源不足、将来の不安、不測のリスクから改善案の実行に踏み切れないことがあったと推測できます。
そこで、これまでの企業評価の経験を生かし、依頼人である経営者とともに経営革新に向けて伴走する実践的な評価システムに再構築することを決断しました。具体的には、小規模企業の実態を踏まえ評価項目を絞り込むことでシステムを簡素化し、また、数値化による一律評価をやめました。一方、より実用的な提言を行うことや、依頼企業の将来像をより具現化する工夫を加えることを構想しました。こうして、経営姿勢に対する共感と企業に対する肯定的な姿勢を軸に、理論と実践の整合性を取ったシステムの改訂を目指しました。
2)2022年版企業評価システムについて
以上のように2017年版企業評価システムを用いた企業評価を通じ改善点の洗い出しと再検討及び社会環境・経営環境の変化に対応した改良検討を進め、現在の経営環境に対応した新たな2022年版企業評価システムを完成させました。
その仕様は、2017年版と同様にエクセルにインプットすることで報告書が作成できるツールとしています。2022年版システムの特長は次の通りです。
①将来への提言
これまでの本評価システムは企業の現状を基に評価・診断するものでした。今回の改定で経営者が思い描く将来の事業戦略や計画に関する内容をインプットに加え、アウトプット(診断報告書)には現状の評価と将来の方向性への評価・提言を盛り込みました。
②ヒト・モノの評価項目の簡素化
経営組織や制度がまだ整っていない小規模企業の評価に対応するため、評価項目を企業分析や経営革新に必要な項目のみに絞りこみました。また、経営組織や制度が比較的整った中規模企業の評価に対しては追加項目をオプションとして用意しました。
a)経営者へのヒアリングがより簡便に行えるように大幅に削減
ヒト: 28項目 → 8項目
モノ: 51項目 → 8項目
b)5段階の評点付けを行わない形式へ変更
これまでの5段階評価“5(十分出来ており成果が上がっている)~1(出来ていない)”という数値化による評価は分かり易い反面、その明瞭さ故に経営者に対して厳しすぎる側面がありました。数値化を止め、代わりに”○(出来ています)、無印(普通)、△(改善の余地があります)に改めました。
【ヒト・モノのヒアリングシート(ヒトのみ抜粋)】
③カネの評価プロセスの簡素化
従来と同様に「中小企業実態基本調査」のデータを活用できるようにし、同一業種・同一規模の企業比較を可能としています。一方、財務分析精度を向上させるために肥大化してしまった評価項目を整理削減し、これまでより少ない項目数ながら、従来と同等レベルの分析評価が出来る様に改良しました。
カネ:29指標 → 10指標
【財務のインプットシート】
【財務分析の総合評価】
4.最後に
「2022年版企業評価システム」は、更に完成度を高め、広くご提供したいと考えています。本システムをご活用頂き、企業の分析や診断に役立てて頂くことを希望しますと同時に忌憚のないご意見をいただきたく存じます。当研究会はこれからも実践と研究の両輪で、更なる改良を検討していきたいと考えています。
以上