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AIの未来予想
2080年代のAIと企業経営

出版社:現代書林
2023/175 頁
1, 760 円/ISBN978-4-7745-1995-1

主要目次

はじめに
1章 10分で振り返るChatGPT現象
2章 AIと集積回路の進化の歴史
3章 AIの現在位置としてのChatGPT
4章 AIの近未来予想
5章 AIは経営をどう変えるか
6章 集積回路とAIの進化の到達点
おわりに

著者

 今井 豊治 [イマイ トヨジ]
株式会社チャイナ・グローバルコンサルティング代表、櫻井興業株式会社最高顧問、CES中電株式会社(東京・北京)取締役・顧問、株式会社アイモーション(東京・那覇)顧問、Hittites Travel Transport, LLC(ニューヨーク)顧問ほか、国内外11社の取締役、監査役、CIOなどを兼務。
1955年、長野県生まれ、1970年代、社会人となり最初に就いた職業がコンピュータプログラマー。その後、SE、プロマネ、システムコンサル、ITコンサル(以上、IT業界の略称表現)などを経験し、現在、経営コンサルティングを営む。今日まで約50年間コンピュータと共に歩む。執筆、講演実績多数あり。
<資格>中小企業診断士(旧・情報部門)、ITコーディネーター、社会保険労務士有資格者
(上記は本書刊行時の情報)

概要
  • 1970年代半ばからプログラマーとして、その後IT技術者・経営コンサルタントとして長年企業のIT化を推し進めてきた筆者が、ChatGPTをきっかけに注目を集めているAIの成り立ち・現状・今後について、ムーアの法則で知られる集積回路の集積度増大などのコンピュータの凄まじい進化も踏まえて俯瞰的に解説している。
  • 第1章では、2022年11月末にOpen AI社のChatGPTが登場して以降、短期間でMicrosoftが提供するBing、Googleが提供するBardなどのAIサービス提供が追従。ビジネスにおける生成AIサービスの有用性に気付いた企業の業務への導入事例の紹介、一方で個人情報や著作権の保護など、リスク対応や生成AIの安全性を担保するためのルールの導入など、各国政府や企業の主要な取組みなどを紹介している。
  • 第2章では、コンピュータの発展の歴史を年代毎に最近の情勢まで、これにAI関連の情報を交えて紹介している。
  • 第3章では、最近のAIブームの火付け役となったChatGPTについて、どういった仕組みで機能しているか、技術的要素の濃い部分を、「機械学習」「ディープラーニング」「大規模言語モデル」といった専門用語を交え、一般の購読者にもわかりやすく紹介している。
  • 第4章では、現在の生成AIをめぐるマイクロソフト、グーグル、アップルなどのメジャープレイヤーの動きや、さまざまな業界での活用されている最新のトレンドや見通しを紹介している。
  • 第5章では、経営コンサルタントとしての観点から、AIが経営に与える影響やビジネス上の活用法について述べられている。
  • 最終章である第6章では、本のタイトルである2080年代の60年後のAIを、コンピュータの凄まじい発展の歴史を踏まえて語っている。半導体の立体化による集積回路の高集積化で、ムーアの法則の継続を予想。一方で、どれだけ発展しても、AIには意思がなく、意思決定は人類の役割であり、シンギュラリティ(注1)はこないという見解を述べている。

重要なポイント

1章から6章までの物語から、重要なポイントを読み解く。

● AIとそれを支える集積回路の高集積化

AIを実現するためには、ハードウエアの性能向上が絶対条件である。コンピュータが生まれた後、1960年代の第1次AIブーム、1980年代の第2次AIブームがあり、それぞれの時代の状況によりブームは終焉したが、当然の理由のひとつとしてハードウエアの性能が人の構想に追いついていかなかった点は大きい。ムーアの法則で進む集積回路の高集積化の時間がある程度経過し、結果として、第3次AIブームとしてようやく日の目を見たのが現状であろう。さらに筆者は将来どこかで限界は来るとしているが、集積回路の立体化によりある程度の期間はムーアの法則が継続すると予想している。2080年頃には、現在と比べても飛躍的に向上した性能の機器・デバイスが存在している可能性が高い。

● 現在のAIブーム(生成AI)とそれを支える仕組み

2000年代以降の第3次AIブームは、インターネット上にある大量のデータをディープラーニングと呼ばれる機械学習の手法で、コンピュータ自体に学習させた大規模言語モデルにより支えられている。大規模言語モデルには、人間の脳内の神経組織の繋がりを模した「ニューラルネットワーク」を数式化されて活用されている。それまでの手法では、コンピュータに学ばせるための情報を人間が用意する必要があったため、人間の能力の制約が限界になったが、自分で勝手に賢くなってくれる仕組みを導入することで、ブレークスルーになった訳である。ディープラーニングでは、読み込ませるデータの特徴を数値化するが、インターネット上の膨大な情報量の対する演算をするためには、それを実現するための高速な演算処理・並列処理が可能なGPUが使われた。OpenAI社は、ChatGPTの前にまず大規模言語モデル「GPT」を開発しているが、元はグーグル社が2017年に発表した大規模言語モデル「Transformer」をベースにしている。

● AIに関わる仕組みやメジャープレイヤーの変化

コンピュータの発展の歴史の中で、新たな仕組みや機能の分化、さまざまなサービスが生まれては消え、加速度的に複雑性と関連性を増しながら発展している姿があり、それを支える企業(メジャープレイヤー)も、資本提携・サービス連携・買収などにより急速に様変わりしている。本書を読むことで、俯瞰的視野で最新の業界動向が把握できる。

● 予想される雇用への影響

これからAIはあらゆる産業に導入されていき、産業革命と同様に、多くの仕事が代替もしくは影響を受けるのが確実である。特に影響を受けるのは、企業で間接部門と呼ばれるサポート的な仕事である。また、生成AIにより、専門家やクリエーターなど、文字やデータを扱う仕事についても大きく影響を受ける。

● ChatGPTの活用法と留意点

筆者は、ChatGPTなど生成AIのお勧めできる活用法をいくつか以下の通り紹介している。
・法律関連の諸実務
・条約・規約・ルールのチェック
・プログラミング
・翻訳
・文章作成
・データ分析・考察・業務日報管理
・アイデア出しや思考の整理(思考を補助するツールとしての活用)
また、検索ツールとして使った場合の留意点としては、無料版のChatGPTと有料版のChatGPTの違い、無料版は2021年9月時点のインターネット上の情報しか学習していない点を指摘しており、求める情報を最速で得るには、有料版のChatGPTの利用や、その機能を流用できるマイクロソフトの検索サービス「Bing」の利用を勧めている(注2)。さらに、経営コンサルタントとしての経験から、生成AIの利用においても、企業によってゴミとするべき情報に注目してしまう懸念について述べている。

● ChatGPTを使う場合のコツと注意点

上手にChatGPTを利用するには、的確な指示を与える必要がある。必要な要素としては3つあり、質問の目的、条件指定(文字数・文体・回答する立場などの役割設定)、回答へのアクション追加であり、細かい指示を与えると欲しい情報が得られる可能性が高くなる。

● 使いこなすためのリテラシー

大規模言語モデルにおける生成AIは、質問や回答の中身を理解している訳ではない。実際には、ある言葉に続く確率の高い言葉を選択し繋いで文章を作っているだけである。ChatGPTは質問に対して、時間を掛けずに提案したりするのは得意であるが、回答の中では信憑性の疑わしいものも多い。利用者には、回答に対しての真偽評価をする能力や、その情報を取捨選択するための一般的な知識・教養が求められる。

● 人間とAIとの違い、シンギュラリティとプレシンギュラリティ

筆者は、シンギュラリティ「技術的特異点」について論じる前提として、人間とAIとの知能の違いを強調している。すなわちAIには意思がない点、人間が主でありAIは従の存在でしかない点である。その上で、2045年と予想されたシンギュラリティは起きないと結論する一方で、すでにAIが人間を超えている分野は存在し、蒸気機関の発明による第1次産業革命に匹敵する社会システムの変化、2030年頃に予想されたプレシンギュラリティ「社会的特異点」(注3)がすでに起きつつあると警鐘している。

● 経営におけるAI

経営コンサルタントとして、長年にわたり経営者を相手にしてきた筆者の観点では、AIは目的達成のための手段であり単なる道具、経営者にChatGPTは必要ないと言い切っている。企業の構造を、3層(経営層・管理層・業務層)でとらえており、経営層の役割は①経営戦略の決定、②経営資源・リソース(ヒト・カネ・モノ・情報)の調達と配分、③社員の動機付け、であることから、現在の生成AIの仕組みが確率論的に生成された文章であること、意思を持たないためにAIは役に立たないというのが理由となる。一方で、管理層や業務層では生成AIの利用により、PDCAサイクルの時間短縮や作業効率化が可能である。

個人的な感想

新人類世代(1955~1967年)の最初の年に生まれている筆者は、企業がコンピュータを使い始めた最初の頃に就職した世代である。同様に評者も新人類世代の後半に属し、システム開発を歩んだ経歴をもつため、どうしても筆者をその頃に指導していただいた先輩方に重ねてしまう。当時のシステム開発の現場といえば、企業によって多少の違いはあるだろうが、大型ホストやオフィスコンピュータ、専用回線、ひとり1台もないグリーンスクリーンのダム端末、ソースコードやコンパイルエラー、障害解析のために16進数の文字で埋め尽くされた幅広の汎用紙が、机の上や積み重なれた段ボールの中に溢れていた。
本書は、そんなコンピュータの企業利用の黎明期から、利用拡大や、発展・変遷の長い歴史の間、継続して第一線で携わってきた経営コンサルタントが、現在ブームになっている対話型AIについて、生い立ち、類似サービスへの影響や動向、今後の予想など、客観的に解説する内容になっている。これからAIを知りたい方、いまひとつAIブームに乗り切れておらず、今後理解を深めていきたい方は、最初に手を取って欲しい1冊である。ただし本格的にAIの仕組みや、使い方を勉強するための内容ではない。言い換えるとあまり若い人向けの本ではないかもしれない。生まれた時からインターネット利用やスマホの存在が普通であるZ世代以降に、昔はどうだったとか、今のAIが生まれた歴史を述べてもあまり意味がないのではと邪推する。また、評者のように筆者同様にIT業界の長い読者には、第2章、第3章の大部分は既知のものが多く、少し退屈かもしれない。また、決してそう表現している訳ではないが、評者は筆者の心の声が、AIブーム過熱気味の皆様に、『もう少し落ち着いて冷静に見てごらん』と上から言っているように聞こえてしまう。
AIがコンピュータの凄まじい発展の中で、生み出されてきたものであり、その過程や、そのなかでの制約、2020年になって誰でも容易に使えるサービスになってきたことなど、すべてにおいて同意する。また、ムーアの法則が継続する仮定の上での60年後の2080年の集積回路の性能やAIの未来像についても納得感があるものの、1点だけは見解が異なる。最終章で、筆者は人間とAIの役割分担やAIの発展可能性・限界などにより、「シンギュラリティはこない」とするが、SF好きの評者には釈然としないところがある。例えば、愛読する“ジェイムズ・P・ホーガン”のSF小説にある土星の衛星タイタン上の機械生命体の世界(注4)も、空想上の話ではあるが、成立した経緯がどうあれ機械生命体が意思をもった文明と思えるからである。本書の主旨とは外れる話であるが、この辺りは、将来、どこかで筆者とお会いする機会を得たら、是非尋ねてみたい。

AIの派生表現

本書では、システム業界やITやAIの専門用語が数多く使用されており、ほとんどは本書内での説明のほか、ネットで検索できるため、すべての説明をする必要はないと考えているが、AIの派生表現については、それぞれに対しての説明がないため、一般的なAIの種類とともに補足説明しておく。

①     AIの種類

本書では使われていないが、一般的にAI(Artificial intelligence)は、領域の幅と推論の深さによって分類されている。領域の幅では、特化型AI、汎用型AIに分類される。特化型AIとは特定の領域に特化したAIであり、限定した範囲の処理、専門分野に特化したもの。汎用型AIとは幅広い領域において推論が行えるものをいう。また、推論の深さでは、弱いAIと強いAIに分けられる。弱いAIとは推論のルールを人間が記述するものをいい、人間を超えることができない。強いAIにはディープラーニングの技術が使われ、学習のための多くの事例が必要になる。特化型のAIでは、既に人間の能力を超えている強いAIが出現している。一例としては、ゲームの世界チャンピオンにAIが勝利したケースがあげられる。汎用型のAIは、自ら学習する能力があり、最初は弱いAIであっても、いずれは強いAIに成長していく可能性をもつ。

②     生成AI

生成AI(Generative AI)とは、データを学習し、新しいデータを創出するAIであり、文章や画像、音楽、プログラミングソースなどを生成する。

③     対話型AI

対話型AI(Conversational AI)とは、人からの入力に対して自動的に応答するAI。人が作成したシナリオに沿って回答するものもあるが、自然言語処理や機械学習により、会話をする程に精度が上がり、より人間らしい回答ができるようになる。

注釈、ワードの出典元

(注1)シンギュラリティ
Ray Kurzweil  (1948年2月12日~)米国の発明家、思想家、未来学者、実業家
・2005年出版 「The Singularity Is Near」

(注2)無償版ChatGPT、有償版ChatGPT、マイクロソフト検索サービス「Bing」との関係

  • 無償版ChatGPT
    Free plan。使用される大規模言語モデルはGPT3.5。OpenAI社が、2022年11月にリリースしたサービス。
  • 有償版ChatGPT
    ChatGPT Plus。使用される大規模言語モデルはGPT3.5およびGPT4.0(Prometheus)。大幅に機能向上されており、画像や音声も扱うことができる。
  • マイクロソフトの検索サービス「Bing」
    マイクロソフト社がOpenAI社に出資している関係もあり、Microsoft Edgeの検索サービス「Bing」からGPT-4を無料で利用可能。

(注3)プレシンギュラリティ
齊藤 元章  (1968年~)  医師、医学博士、実業家、スーパーコンピュータ開発者、汎用型AIの研究者
・2014年12月出版
『エクサスケールの衝撃』

(注4)“ジェイムズ・P・ホーガン”のSF小説にある土星の衛星タイタン上の機械生命体の世界
James Patric Hogan (1941年6月27日~2010年7月12日)英国、ロンドン生まれのSF作家
数多くの作品のうちの「造物主(ライフメーカー)」シリーズ
・1983年6月出版 造物主の掟(Code of the Lifemaker)
・1995年2月出版 造物主の選択(The Immortality Option)

評者: 東京都中小企業診断士協会城北支部 酒井寛行

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