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「国際ビジネス支援ツール」の開発と、企業での活用事例の紹介

ワールドビジネス研究会   小澤 徹
渡邊 裕美子

はじめに ワールドビジネス研究会(WBS)について

ワールドビジネス研究会は、東京都中小企業診断士協会の認定研究会である。
研究会内外との連携・交流などを通じ、海外情報の収集と共有、 中小企業の海外進出や国際取引の支援に必要な知識とスキル向上、内外ネットワークの構築と醸成などを図り、国際派診断士としての自己の成長を目指している。会員数は約210名である。
WBSでは、スピンオフ的な活動として、分科会活動も行われており、現在10の分科会がある。分科会の1つに「国際ビジネス支援ツール分科会」があり、中小企業診断士が、海外展開を行う企業を支援する際に必要な、知識や情報を提供できるツールの作成を目標に活動を行っている。本稿では研究分科会でのツール開発につき下記の点を紹介したい。
1.ツール開発の経緯
2.ツール作成の成果
3.実際に活用いただいた企業からの評価
4.今後の課題

  1. ツール開発の経緯
    日本中小企業診断士協会連合会のホームページに掲載されている「中小企業の海外展開支援業務と知識体系」(以下「知識体系」)は、診断協会の依頼を受け当研究会のプロジェクトチームが2017年2月に作成し、2023年1月の改訂を行ったものである。
    この「知識体系」は、診断士が中小企業の海外展開支援を行うにあたり、必要な業務の知識と情報を体系化した非常に有用なものである。1,000以上の項目を、プロセスごとに階層で整理したものであるが、あくまでもやるべきこと、知っておくべきことを体系化したものであり、実務経験の豊富ではない人にとっては、やや取りつきにくいものであることは否めない。当研究会では、「知識体系」を活用し診断士がより効率的に支援業務に携われるようにするため、分科会活動を通して2つの取り組みを行った。1つが2019年6月に「研修分科会」が主体となって「中小企業海外展開支援講座」を開講(現在第5期を実施中)したこと、2つ目が、本件「国際ビジネス支援ツール研究分科会」による「国際ビジネス支援ツール」(以下、「ツール」)の作成である。前者の講座にはこれまで累計100名以上の参加を得てきたが、より多くの診断士に「知識体系」を活用してもらうため、2021年4月に新たに分科会を立ち上げ「ツール」開発を開始した。
    ツール研究分科会では当初、診断士が企業の海外展開を支援するにあたり「知識体系」に基づいた支援を行うことができるようにしたいとの想いから、網羅的系統的な「ツール」の開発を目指した。「知識体系」を構成する第2階層の53項目について、それぞれ解説を作成する取り組みを行った。分科会メンバーが、53項目の中から興味や関心のある項目を選び、解説などの資料を作成し発表する作業を行った。
    研究会としては、メンバーの研鑽や研究に効果のある取り組みであったが、その成果物を「ツール」とすることには限界があった。その理由の1つは53項目に対し1項目あたり数ページの解説を作成すると膨大な量となり、診断士がより効率的に支援業務を行うためという目的に逆行することになりかねないことである。
    もう1つの理由は、「ツール」の作成は研究会の分科会メンバーの研鑽や研究に資するという目的があるが、成果物としての「ツール」は、診断士が企業の海外展開支援に際して役立つもの、企業と「ツール」を共有しながら伴走支援を行う際に使いやすいものとする必要があるため、ユーザー目線に立った「ツール」を開発することが必要ということであった。
    そこで、「知識体系」の解説・解釈ツールではなく、海外展開に必要な知識や情報を、分かりやすく、かつ重要な項目を中心に提供することに目標を変更した。
    今回作成したツールは、海外展開のステップのうち、検討から実際の展開までの流れを俯瞰できるフロー図と、ステップごとに多くの知識や情報の中から、企業や診断士が必要なアクションをチェック・確認し、行動に移すことを支援するための本体部分から構成されている。
  2. ツール作成の成果
    (1) ツールの構成
    今回作成したツールは、プレゼンテーションスライド12枚の構成で、企業や診断士が利用するにあたり負担感の少ないボリュームとした。最初に海外展開のフローチャートを示すことで、全体の流れを掴めるものにした。(2)企業のニーズに応えたフローチャートの作成
    「知識体系」は海外展開後の現地運営・管理やリスクマネジメントなども包含したものであるが、はじめに、海外展開のステップのうち、検討から実際に展開に至るまでのステップのツールを作成した。多くの海外展開を初めて行う企業にとって、このステップをどう進めてよいか分からないことが多く、かつ海外展開の成否に直結する重要なステップであるからである。実際に、海外展開を考えている企業や、既に海外展開を行った企業に聞いたところ、海外展開には多くのやるべきことがあり、何を・いつ・どのように行うかが分からずに苦労したという声が聞こえてきた。海外業務経験の少ない診断士の多くも、同じような課題意識をもっていることが分かり、まずは海外展開のために必要な5つのステップ(①海外展開の目的・自社の分析、②ビジネスモデルの具体化、③事業化調査、④事業計画作成、⑤海外展開実施)をフロー図で示し、各ステップのポイントや着眼点を1枚にまとめたものを作成した。(3)診断士による伴走支援をサポートするツール
    企業は、上記のフローで全体像を把握し、海外展開の検討や準備を開始することになるが、実際には、いつ何をしたらよいのか、やることは分かっていても、どのように取り組めば良いかが分からない、という課題に直面することが多い。上記フローチャートの「着眼点」には29項目があり、これらの項目の内容を理解し、必要なアクションを取ることは大変なことである。
    また、企業を支援する診断士にとっても、企業とフローチャートを共有することで、企業が海外展開においてどのステップにいて、どのような知識や情報が必要で、何をいつ、どのように行動するかを助言する際にも、適切な助言が行えると考えられる。
    そのため、フローチャートを用いて、企業との対話を行いながら支援を行うにあたり、実際に海外展開の検討・準備を行っている企業の意見を聞くことの必要性を感じていた。
    既に海外進出を行っている企業の意見は聞くことは可能であったが、実際に海外展開を検討中、準備中の企業の意見を聞く機会を得るのは難しい状況であった。
    そのような中、当研究会と親密な関係にあるシンガポール在住のコンサルタントから、福島県須賀川市に本社を置く、神田産業株式会社様をご紹介された。同社は創業120余年の段ボール製造業で、包装資材の段ボールに加え、自社独自技術を活用し「だんぼっち」という小型居室を開発・製造している。当社は「だんぼっち」の海外への販路開拓を検討しており、自社の現状を把握し、海外を含めた成長戦略を検討したいという意向があり、当研究会で企業診断を行い、成長戦略を提案する機会を得ることができた。
    当社および、当研究会の支援については後述するが、海外展開を検討・準備中の企業の診断と提案を行うことで、海外展開支援ツールの開発にあたり大きな成果を得ることができた。
    (4)ツールの具体例
    前掲のフローチャートに加え、ツールでは下記の構成からなるコンテンツを作成した。
    ① チェックポイント
    ② 作業項目
    – 検討作業 - 分析作業 - 調査・情報収集作業など
    当初は「知識体系」の項目をチェックリストとして列挙する方法を検討した。しかし、「知識体系」では備忘のための確認項目から、十分な時間をかけて分析・検討を行うべきものが並列に表記されている。企業や診断士が、どの項目に時間をかけて、検討、分析・調査の作業を行うかの一般的な指針を示すことで、効果的・効率的に海外展開の準備を行える形式にした。
    チェックポイントは、海外展開にあたっての現況や準備状況、また作業後の成果を、企業が自らチェックできるチェックリストになっている。企業はチェックを行い、リストの項目が十分にできていない、整理できていない場合はその項目について、別途検討を行う必要がある。
    下記がチェックリストの1例であるが、経営理念やビジョンなどが明確になっていない企業の場合、海外展開という大きなプロジェクトを遂行するにあたり、ステークホルダーへの説明や、海外のパートナーや顧客との交渉などハードな作業を行う中で、経営者や海外展開の責任者の方針や想いにブレが生じると、上手くいかないケースを見てきた経験から、経営理念やビジョンが明確になっていない場合はそこから始めることが必要であることを示している。図表4:チェックポイント下記が作業項目の例であるが、ビジネスモデルの検討は、別途記載されている分析作業項目に含まれるSWOT分析などと合わせて、診断士による支援の本丸の部分でもあり、診断士が企業の海外展開に必要かつ、相応しい存在であることを企業にアピールできることも意識して作成したものである。図表5:検討作業項目
  3. 実際に活用いただいた企業からの評価
    前述の通り、本ツール開発にあたっては、現在海外展開にお取り組み中の神田産業株式会社様への企業診断を通してご意見をいただいたことが、内容や表現のブラッシュアップに大きなプラスになった。
    (1)神田産業株式会社様の概要
    神田産業株式会社(福島県須賀川市)
    創業:1897年(明治30年)、従業員数:68名(うち海外実習生1名)
    【事業内容】
    段ボール製造業。包装資材用の段ボールに加え、軽さと強度を両立したペーパーハニカムダンボールを利用し、様々な製品の開発と製造を行う。パネル組立型ER(緊急救命室)は多数の受賞歴を持ち、災害現場での利用が広がる。利用時以外は折りたたんで省スペースで保管でき、血液や細菌などで汚れた場合はダンボールのため焼却処分も可能。コロナ禍では救急用の感染症ユニット、発熱外来ユニット、抗ウイルスパーテーションとして活躍。

    (写真:熊本地震の際に設置されたパネル組立型ER)
    【海外とのつながり】
    2016年からドイツやアジアの展示会でパネル組立型ER、救急治療ユニットを出展。2023年12月 アフリカのザンビアにおける段ボール製医療室のニーズ調査に向け「中小企業・SDGsビジネス支援事業」としてJICAが採択・支援を決定。また、シンガポールを拠点に、ダンボール製の簡易防音室「だんぼっち」のアジア展開も視野に入れ活動。
    (神田産業株式会社 ホームページより)
    (2)神田産業様の海外展開
    当社はハニカム段ボールを利用した独自製品の海外展開を考えていた。アジア市場での販路開拓を検討してきた。一方でハニカム段ボールの特長を活かし医療衛生や防災など社会課題の解決のための探索を行っていた。当研究会が企業診断を開始した直後の2023年12月に、地元東邦銀行の協力を得て応募していた国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」の「ニーズ確認調査」に採択された。
    当社はJICA事業の推進を進めるとともに、アジア市場での代理店や製造委託先の候補を見つけることができ、海外展開に向けた本格的な活動を開始したところである。
    当研究会ではちょうど開発中であった本ツールを紹介し、海外展開にあたって日本の本社で留意すべきポイントやアクションを、企業診断の報告に取り入れるなどの支援を行った。
    (3)神田産業様からの評価
    海外展開の各ステップにおいて、対応すべき必要な事項がわかりやすくまとまっていると評価を得ている。海外展開では長い時間をかけて準備し、関与する社員が増えてくることから、ツールにより現在の立ち位置と今後成すべき事項を俯瞰できると有用性を認めている。海外展開においては、不測の事態への対応力が常に求められ、難しい経営判断に迫られた際に次のアクションの検討に役立つと評価をいただいた。
  4. 今後の課題
    (1)展開後のツールの作成
    今回作成したツールは、海外展開の検討から実際の展開にいたる「展開検討編」であるが、海外展開後も、現地法人の運営管理、パートナーとの交渉、販路拡大、リスク管理など様々な課題に直面することになり。「知識体系」は展開後の海外事業に関する知識や情報を網羅しているので、海外展開後の企業のための支援ツールの作成にも取り組みたいと考えている。
    (2)テンプレート
    今回はプレゼンテーションスライドでツールを作成しているが、表計算ソフトで作成することで、タスクなどへの取り組みの期日や進捗管理、その可視化を行うことが可能になる。実際の企業の支援にあたっては、企業と診断士で各社の状況や海外展開の内容によってカスタマイズして対応することになると考えている。
    一方で当研究会での支援は今回の神田産業様の場合もそうであったが、複数メンバーで支援を行うケースが多い。当研究会では独自に「kintone(キントーン)」を導入しており、研究会メンバーは「kintone(キントーン)」や「Garoon(ガルーン)」の機能を活用できるため、「kintone(キントーン)」のアプリでのプロジェクト管理も可能になる。そこで、プロジェクト管理機能を有するツールにすることで、次に記すツールの活用の場の拡大にもつなげたいと考える。
    (3)幅広い場での活用
    今回作成のツールは、当面200名超の当研究会のメンバーでの活用を想定している。当研究会メンバーには、顧問先などの海外事業支援や、窓口相談業務に携わっている人も多いが、そのような場での企業支援のツールとしての活用を行い、実際の企業支援に基づくフィードバックを反映させることで、ツールのブラッシュアップを図り、当研究会以外にも活用の場を広げることを検討したい。

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