障害者支援NPO法人の持続的成長を支える人材確保と寄付増大の取り組み

1.はじめに
ダイバーシティ研究会(以下D研)は、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)に関する調査研究、執筆活動を通じて、企業のダイバーシティ経営の推進支援に取り組んでいる。2023年3月から10月にかけて、障害者支援NPO法人こつこつの支援を行った。
2.NPO法人こつこつの概要と課題
NPO法人こつこつは「障害があり発話が難しくても意思があり、言葉を伝える方法があることを社会に広める」をミッションに活動する団体である。団体名の「こつこつ」は「言葉をつむぎ、心をつなぐ。」の頭文字から名付けられた。当団体は2009年から当事者の言葉を表現する指談等の手法を知ってもらう活動を行っており、2018年にNPO法人化して今期で8期目となる。
当団体は、スタッフの高齢化や、コロナ禍の影響によるボランティア不足、寄付の減少などの課題に直面していた。そのため、当団体の寄付と支援者を集めることを主な目的として、D研メンバーで支援活動を行った。我が国のNPO法人が直面する課題は、「人材の確保や教育」「後継者不足」「収入源の多様化」が上位である[1]。当団体の抱える課題は多くのNPO法人が直面している課題と共通しており、本取り組みを共有することで当協会の中小企業診断士のNPO法人支援に資すると考える。
3.具体的な支援内容
(1)支援体制とプロセス
本プロジェクト(以下こつこつPJ)の支援体制とITを活用した情報共有体制を図表1に示す。

図表1プロジェクト体制とITを活用した情報共有体制
団体スタッフの負荷を軽減するため、D研と団体の窓口を一本化した(図表1(a))。またD研と団体との連絡は団体が使い慣れているLINEを利用した。一方で、D研内の情報共有はSlack、Google Drive、メーリングリストなどを活用した。
こつこつPJのプロセスの概要を図表2に示す。「支援体制の構築」後に、「NPO支援の基礎知識習得」のためにD研内でファンドレイジングの勉強会を開催した。本論文では次節以降で、「現状分析と課題抽出」、「あるべき姿の可視化」、「施策検討及び実践」を説明する。「施策検討及び実践」は、定量・定性的成果が確認できた施策に焦点を当てて、「寄付の増加」「人材の確保」について報告する。その他詳細については参考文献[2]を参照。

図表2 こつこつPJのプロセス概要
(2)現状分析と課題抽出
現状調査として、当団体の財務諸表、事業計画書、HPとSNS等を調査した後、団体スタッフへのインタビューを実施した。調査結果をもとにSWOT分析(図表3)を実施し、課題を抽出した(図表4)。抽出した各課題について施策の検討・提案を実施した。

図表3 SWOT分析

図表4 課題抽出
(3)支援内容
- あるべき姿の可視化(ビジョンの共有)
団体内外の関係者とビジョンを共有するため、団体の過去から未来を構想するための思考補助ツールである経営デザインシート(以下KDS)[3]を作成した。KDSにより、団体のビジョンである「見た目で判断されず誰もが人として意思を尊重される社会」が団体内で共有され、5年後の2028年に向けて何をすべきか明確になった(図表5)。ビジョンが共有されることにより、HPやSNSなどで団体の活動に共感する支援者や潜在的ボランティアに対して訴求すべき事項が明確になった。
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図表5 団体が作成した経営デザインシート(KDS)
2.寄付の増加
寄付の増加を目的として寄付サイトの選定・構築を実施した。当団体では寄付の決済方法が銀行振込のみであり、寄付者と当団体の両者に手間が発生していた。寄付者の利便性を向上するために、クレジットカードなど多様な決済手段をもつ外部の「寄付サイト」の導入を検討した。振込手段の多様さに加えて、使いやすさ、費用等の評価項目を設け、複数のサービスを比較検討した。図表6に最終候補となった2サービスの比較表を示す。選定の結果、利用団体数が多く、月額費用が0円であるSyncable [4]を採用した。Syncableの導入(https://syncable.biz/associate/kotsu2)により、クレジットカード等での決済が可能になった(図表7)。
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3.人材の確保
人材確保の施策として、人材募集サイトの構築と、チラシ・DMによる学生ボランティアの募集を行った。
当団体ではHPやSNS運営をメインで担うスタッフの確保が課題であった。自社HPと求人サイトの比較を行い(図表8)、求人サイトを利用したスタッフ募集を提案した。求人サイトは、新規構築の容易さと保守性を重視し、NPOのボランティア情報サイトで国内最大級の「activo」[5]を採用した。当団体の「activo」のサイトを図表9に示す。
また、当団体ではコロナ禍以降、学生ボランティアの不足が課題であった。そのため、近隣大学のボランティアサークルに所属する大学生をターゲットに、チラシの配布とDMによる募集をした。チラシの例を図表10に示す。

図表8 団体HPと人材募集サイトの比較
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4.定量的および定性的な成果
(1)寄付の増加
支援後に寄付サイト(Syncable)を利用した寄付者数と寄付金額を集計した。導入前後の同月(10月~7月)の集計結果を図表11に示す。寄付者数は全体で11%増加し、寄付金額は4%増加した。また、賛助会員のうち年会費プランでの申込が複数あり、それらの賛助会員からは定期的に寄付が継続される。銀行振込では定期的な寄付の意向があっても振込を忘れる寄付者もいる。寄付サイト導入によって振込忘れを防止し、持続的な支援につなげることができた。
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図表11 寄付サイト(Syncable)を利用した寄付者数と寄付額の割合
(2)学生ボランティアの増加
PJ実施前(2022年度)、PJ実施後(2023年度、2024年度)の1回のイベントあたりのボランティア参加者総数と新規参加者数の平均を集計した(図表12)。PJ実施後、総数および新規参加数のいずれも増加傾向にある。D研メンバーが参加した2024年6月のイベントには総勢7名のボランティアが参加し、会場設営や進行が円滑に行われた。参加した学生からは前向きな感想と次回参加の希望があり、ボランティアの継続的な確保につながっている。

図表12 イベントあたりの平均ボランティア数
5.今後の課題
今後は「SNSおよびHPの改善」と「ノウハウの見える化」の支援を予定している。
こつこつPJでは寄付や支援者の増加を図るために、SNSやHPの動線の改善策を提案している。当団体のビジョンに共感する支援者が寄付やボランティア参加をしやすくなるように動線を意識したHPへ改善する予定である。また、D研メンバーが当団体のイベントに参加した際に、会場のレイアウトや役割分担などの情報共有、機材接続手順の整備不足が観察された。今後は情報共有の改善とノウハウのマニュアル化を進め、参加経験の少ないボランティアでも会場設営できる体制を整える。
6.研究会としての今後の取り組み
こつこつPJを通して、研究会としてのNPO法人の支援の知識・ノウハウを習得することができた。今後もD&Iに関する活動をするNPO法人を中心に、本プロジェクトの知識・ノウハウを生かして積極的に支援していきたい。
参考文献
[1]“令和5年度特定非営利活動法人に関する実態調査,”内閣府NPOホームページ,2024年3月28日.
[2] 松崎,”地域の障害者支援団体に対する支援の取り組み,”(一社)東京都中小企業診断士協会 地域支援ノウハウ集,2024年3月.
[3] 経営をデザインする,首相官邸 知的財産戦略本部HP.
[4] Syncableホームページ(https://syncable.biz/)
[5] activoホームページ(https://activo.jp/)