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【書評】IBM流シンプル会議

 

 

 

 

【登録情報】
出版社:‎秀和システム
発売日:2021/11/30
単行本:264ページ

 

  【著者】小山太一[コヤマタイチ]
◎生産性改革コンサルタント。中小企業診断士。東京都中小企業振興公社21世紀人材育成プロジェクトコーディネーター。コヒーレント・コンサルティング代表。

◎1953年、福岡県北九州市生まれ。1978年九州大学大学院工学部修士課程修了後、日本アイ・ビー・エムに入社。35年間、一貫して製造業のシステム開発・導入および業務改革コンサルタント職に従事し、一部上場企業の数十億円規模の業務改革プロジェクトに携わる。

◎2013年IBM退職後、生産性改革コンサルタントとして独立。大手企業や日本バリューエンジニアリング協会、千葉県産業振興センターなどで、会議術を含めた「生産性を改善し、経営改善を目指す」ための研修・講演・コンサルティングを行っている。また、東京都中小企業振興公社においては21世紀人材育成プロジェクトのコーディネーターを務めており、次世代を担う若手経営者の育成、会議の効率化などを継続指導中。

(上記内容は本書刊行時のものです。)

【目次】
第1章 どうすれば会議を改善できるのか?
第2章 場を整える ~ListenとThinkの実践のコツ
第3章 発言のムダを省く ~Talk netと1 subject at a timeの実践のコツ
第4章 正確に伝える ~State clearlyの実践のコツ[その1]
第5章 論理的に検討する ~State clearlyの実践のコツ[その2]
第6章 より良い結論を得る ~Be DecisiveとUnanimous agreementの実践のコツ
第7章 シンプル会議の進め方

 【概要】
「7つのルール」「7つのムダ」「シンプル会議」本書のキーワードである。
本書はバブル景気崩壊から既に30年以上が経過したにもかかわらず、いまだデフレから脱却できていない日本経済の中で、いかに生産性向上を図り、少子高齢化の中で経済成長を目指すための一助となるものである。
著者の経験から、企業の意思決定の中で重要な割合を占める「会議」が、日本企業は満足できるレベルにないという点を課題として取り上げている
タイトルにIBM流とあるが、本書は日本での経験をもとに執筆されており、一般的な日本企業でありがちな状況や原因に対して、「短時間で議論を掘り下げ意志決定を行う」というゴールに向けて、具体的なルールやコツをもとに解決したいビジネスパーソンの手引き書として役立つものである。

 【感想】
前提
会議自体の目的として、営業会議などでは、営業社員への教育や指導といった側面が重要となる場合もある。そのような目的について本書は残念ながらあまり有用でない。そういった類のノウハウを求めるのであれば、教育関係の本を読まれることをおすすめしたい。

さて、企業人生において会議と名前がつくものを好きといえる人材はどの程度いるであろうか。
日々忙しい中で、ダラダラと報告が続く、意思決定がなかなかされない、自身の地位や知識の証明のために本質的でない発言から時間が超過する、他人の発言を聞かない、遮るといったことにより、議論を深め、意思決定するという目的が達成されないことはどの程度であろうか。
コロナ禍により在宅ワークやオンライン会議が増加するなかで、会議の形態も変わってきているが、リアル会議もオンライン会議においても抑えるポイントは同様であり、かわらず活用できることが本書の内容が、本質的であると感じるひとつの要因となっている。

本書は冒頭で、会議について20の設問が提示される。この段階で自社の会議のレベルについて100点満点で何点であるか把握することが可能である。設問ごとになくすべき会議のムダと紐づいており、本書を最初から通して読まずとも、顕在化している課題に対して解決策を確認することができる点が、既に生産性向上を考えて作られており秀逸である。

会議の効率化その前に
会議と名前がつくもので、営業会議、製販会議、進捗会議など企業ごとに色々な名称で実施されていることであろう。また、目的も目標に対する進捗確認のための報告会や、生産計画を決めるためのもの、多数存在しているはずである。
会議については無くせるものは、無くす方が良いと考えられる。
これは、ECRS(改善の4原則)
Eliminate(排除)、Combine(結合と分離)、Rearrange(入替えと代替)、Simplify(簡素化)の、排除がまず必要なためである。
このため、前提としてある程度、不必要な会議を無くす、単なる報告はレポートでの提出へ置き換えるなど業務の効率化を推し進めたのちの、最後にSimplify(簡素化)として、会議の効率化を図る方が、業務改善としては健全である。

企業規模と意思決定
意思決定は大きく3つがある。つまり「会議」「稟議書」「個別報告と即断」である。
当然ながら本書は会議が頻繁に行われている前提となっている。また、タイトルに「IBM流」とあるように、IBMのような巨大企業もしくは、IBMと取引をするような、ある程度以上の規模を持つ企業での事例が中心になっており、本文中に明示されていない、前提条件が潜むことに注意しながら読む必要がある。

一般的に社員数の増加とともに、業務の専門化が進むとともに、意思決定について権限の委譲がおこると言える。一方で多くの中小企業では会議の実施がないことも珍しくない。なぜならば、そもそも権限の移譲が行われていない場合、関係部門の担当者が一同に会すということ自体が存在しないためである。
また、多くの中小企業はオーナー社長であり、個別の相談や報告に対して、社長が瞬時に意思決定を行うことの方が多いと言える。(個別報告と即断)

日本国内の企業の99%以上が中小企業という状況において、会議が行われていない企業も相当数存在すると予測される。そのような企業にあって、意思決定の権限移譲を進め、企業成長を図るような場合であれば、必然的に「会議」「稟議書」という意思決定手段が必要になってくるであろうと考えられる。
意思決定にたるだけの文書を作成することは、調査分析力、計画策定能力、文章力、オフィスソフトの操作力など、複合的な能力が必要であることが、見過ごされがちである。
例えば、製造部門の担当社員では、オフィスソフトの操作に明るくないことも多々ある。また、営業部門はノルマとして目標設定されている場合などは、計画策定能力があまり高くないなど個別の事情が発生しがちである。
すなわち、稟議書のような意思決定に対して一式まとまった資料の作成は、通常の業務では必要のない、能力が必要になるといったこともあり、ハードルが高いといえる。このような状況から、権限移譲を進める際は、会議の方が導入自体は容易である。
その際の、ゴールとする会議の理想像の設定や、会議を始めて導入する際のルール設定に対する導入書として活用する方が、中小企業での活用としては実態に即していると言える。

会議は必要か?
不要な会議の削減ができている前提で、大きく2つの方向性からの検証が必要である。一つは会議以外への置き換えの可能性。もう一つは文化的な側面である。
稟議書への置き換える場合。
個別の課題について、関係部門や外部専門化、パートナー企業へ適切なヒアリングと根回しを実施し、必要に応じて提案を引き出し、見積もり金額の交渉も行い、数値の妥当性と調整をもとに、高い文章作成能力によって分かりやすい資料を作成できる人材がいれば多くの場合で会議は不要である。

文化的な側面について
異文化理解力(エリンメイヤー著)によると、日本は他国に比べ強いハイコンテクストの文化であり、意思決定については、合意志向が欧米に比べて強い文化と指摘されている。
ハイコンテクストとはその場で前提となる暗黙知や行間や空気感などを感じながらの、コミュニケーションを行うということである。
例えば、上司から営業担当へ「そこにゴミ落ちているね」と言われた場合、多くの日本人はゴミを拾う。一方でローコンテクストのカルチャーでは、ゴミを拾うという意味は伝わらないのである。
合意志向の反対はトップダウン式である。トップダウン志向は意思決定者が決めたことには黙って従うということである。合意志向はその逆であるから、トップダウンを嫌い、話し合いで意思決定の雰囲気を醸成しつつ、進めたいという文化的な特徴である。
つまり、日本人は行間や雰囲気を感じながら、頭ごなしに決められない方法を好む文化圏なのである。一方で、中小企業では個別報告と即断が多く、社員の能力をうまく引き出せていない可能性もある。

中小企業診断士として中小企業へ会議を導入するのであれば
日常的に会議を行なっていない、中小企業に向けて会議を導入するのであれば、初めに効率的で、意思決定がスムーズに進むための道標として、会議のルールを設定することは有用である。
また、経営資源について潤沢とは言い難いことが多い中小企業において、経営者の経営業務に携わる時間を捻出するためには、業務や権限を移譲することが大切である。そういった視点で読むことで、会議参加者としての効率化とは異なる気づきが得られることであろう。

評者:東京都中小企業診断士協会城北支部 石井邦利

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