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【特集】組織マネジメントに活用できる管理者のための「人事評価」

人財開発研究会
土居 弘之

はじめに

人財開発研究会は、2022年8月現在、メンバーが34名おり、月例会を中心に活動を行っている。2022年度は、会員の有志10名によって、人財開発に関する書籍出版のための執筆を行っており、その中の一つである「人事評価」を代表例として掲載する(人財研代表 上井光裕)。

人事評価については、多くの企業・組織で実施しているものの、その運用に悩む管理者は多い。
・この忙しい時期にまた、人事評価か。
・悪い評価を付けると、働く意欲を下げてしまうかもしれない。
・人事評価って結局は好き、嫌いでしょ。
・・・

しかし、改めて申しあげるまでもないことだが、管理者の果たす役割は、会社・組織の成長のために組織メンバーの能力・長所を最大限活かして、組織目標を達成することであり、そのマネジメント対象が「人材」「業務」両面であることは言うまでもない。
そこで、管理者にとって、「人事評価」が「人材」面はもちろん、「業務」面までも含めた組織マネジメントに有効なツールである、ということをお伝えしていきたい。

1節 人事評価の概要

(1)なぜ人事評価を実施するのか

人事評価を実施する目的は大きく3つある。

①処遇への反映

まず一つ目は処遇への反映である。人事評価については、定められた期間中の組織メンバー一人ひとりの「できた」「できない」など、評価結果を判断するものであり、結果として、「昇降給」「賞与」といった組織メンバーの処遇にも直結する。
もちろん、これはこれで重要なことではあるが、この処遇への反映のみを人事評価の目的と捉えると、管理者にとっては単なる業務負荷と感じられる場合も少なくなく、組織マネジメントへの活用には到底、つながらない。
ではどう捉えるべきか、それが②③に続く。

②能力開発・人材育成

組織メンバー一人ひとりの評価結果を能力開発・人材育成につなげること、これが二つ目の目的である。「できた」「できない」の評価結果を掘りさげ、「なぜできたのか、何が良かったのか」、一方、「なぜできなかったのか、何が良くなかったのか」、さらには、「次期・将来に向けた改善点は何なのか」を繰り返すことで、組織メンバーの能力開発・人材育成の課題に多くの「気づき」を得ることができる。

③企業・組織の業績向上

三つ目は組織の業績向上への貢献である。管理者自身の業務責任範囲については、自身を含めた組織メンバーの業務の総和であり、理論上、下記の式が成り立つ。

組織(管理者責任)の業務=組織メンバーの業務の総和

管理者は組織メンバーと方向性(目的・目標)を共有し、組織メンバーへの業務分担と進捗管理を行い、さらに時にはメンバーの働く意欲を高めながら、組織全体を目標達成に導くことが求められる。組織メンバーの業務の総和が組織の業務全体であることから、仮に期末において、管理者を含めた組織メンバー全員が目標達成を果たすことができているなら、理論上、組織目標は達成されているはずであり、逆を言えば、管理者は組織メンバーに対し、そうなるよう適切な業務分担を行う必要がある。このツールとして、「人事評価」のプロセスは大いに役立つものである。

以上、3つが人事評価の目的である。

(2)何を評価するのか

続いて、人事評価は何を評価するものなのか。企業・組織によって見方が異なる場合もあるが、一般的には、「業績評価」「執務態度評価」「発揮能力評価」の3つに分けられる。
大きな分類としては結果・状態を対象とする業績評価と、経過・プロセスを対象とする執務態度評価、発揮能力評価に分かれる。

図表1 人事評価の3つの側面

これら3つの側面を少し俯瞰的に見た場合、以下の捉え方が成り立つと考える。意欲、スキル等をもつ「人」が、業績という「結果」を導く過程のなかで、執務態度、発揮能力というプロセス自体を「仕事」と捉えれば、人・モノ・金・情報等の経営資源の一つであり、しかも最も重要といえる「人」が、「仕事」を通じて「結果」を導くという構図が成り立つ。

このとき、プロセスである「仕事」部分に着目すると、ここがまさに人事評価でいう「執務態度」と「発揮能力」であり、これらが期待通りに発揮されれば、結果である「業績」も自然とついてくるように評価制度が設計されているべきである。このことから、管理者にとってプロセスである「仕事」部分と結果である「業績(目標)」をいかに連動させてマネジメントできるかが重要であると考える。

図表2 人事評価の観点に立った「仕事」の概念図

2節 人事評価を活用した組織マネジメント

2節では人事評価を、組織マネジメントにどのように活用していくかをお伝えする。

(1)評価期間中の時期(期初、期中、期末)による重点取り組み事項

人事評価の期間を期初、期中、期末の3つに分け、各時期にどのように活用していくかをご紹介する。

①期初

管理者は期初に計画策定をおこなうだろうが、業務分担の割り振りは、人事評価における組織メンバーへの業績目標の設定そのものであり、また、その達成に向けた手段・方策の策定は、プロセス評価である執務態度や発揮能力に期待される姿勢や行動の設定といえる。前者の設定は業務面、後者の設定は人材面に関する計画を具体的なレベルまで掘りさげることに他ならない。
また、人事評価においては、プロセス評価である執務態度評価や発揮能力評価の各項目を担当業務(業績評価の各項目)と紐づけ、期待姿勢・行動を設定しておくことが望ましい。「この項目は、この業務のこういう機会に具現化する」ということを管理者、組織メンバーの間で事前に共有しておくことで、目指すところや対象が明確になり、人事評価の納得性も増す。こうすることで、人材面では組織メンバー個々のキャリアの将来像に対し、当該期間内にどういう行動を心がけ、どういう経験ができるかなど、ターゲットとする行動を明確にすることができる。また、業務面においても、同期間においてメンバー本人が何を実現・到達しなければならないかを事前に認識することができる。

図表3 発揮能力項目における期初の期待行動設定例 ※採用担当の場合

出典:令和3年9月 内閣人事局・人事院『人事評価マニュアル<資料編> 資料3 評価項目及び行動・着眼点(例)一覧表』に基づき、作成
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/r0309_hyouka_manual_shiryou.pdf

②期中

組織マネジメントおよび人事評価いずれにおいて、期中は正に業務遂行を図っている段階であり、管理者は期初に定めた組織メンバーの業績目標、また、期待姿勢・行動が想定どおり実施されているかなど、状況確認、進捗管理を行いながら、軌道修正を含めて人材・業務面において組織メンバーとの積極的な関りが求められる
このとき、管理者にとっては、組織メンバーの状況観察・指導および記録が重要となるそのポイントとなることは、期初にあらかじめ設定している「業績目標、および、執務態度や能力発揮の期待姿勢・行動」ということになる。人事評価という点において、管理者にとって期中の事実を適切に保存しておくことが望ましいことに異論がある者はいないだろうが一方で、日々、起きている職場や組織メンバーの状況を記録することは管理者にとって容易なことではなく、また、全てを留めておくことは不可能に近い。加えて、アテもなく、大量の記録があっても評価時や期末に振り返りを行う際、必要な情報を拾い上げることも煩雑になりかねず、不要となるものも多い。だからこそ、期初の段階で業績目標を設定し、執務態度および発揮能力の期待姿勢・行動を明確にしておくことは、観察・指導ポイントも明確になり、効率かつ有効な記録に繋がるといえる。

なお、観察・記録している組織メンバーの姿勢・行動については良い点、悪い点いずれも期末にため込まず、適宜、指摘することが望ましく、特に正さなければならない姿勢・行動については即座に指導する必要がある。人事評価の目的が「処遇」だけでなく、「能力開発・人材育成」も兼ねている、ということを鑑みれば、自ずとご理解いただけるだろう。

③期末

期末においては、期初に設定した目標、期待姿勢・行動の到達度合いを評価・確認し、さらに次期以降に向けた改善点を抽出する段階である。この際、実際の行動や事実ベースの客観的な情報から判断することが最も大切である。

(ア)客観的事実による評価の徹底

評価者にとって気を付けなくてはいけないことは、「彼女はやればできる」「彼のことはあまり好きではない」というような主観・先入観を排除できるかどうかである。実際、「言うは易し、行うは難し」であり、これは相当、難しい。というのも、我々は日常生活の中で、既に多くの場面で主観的な評価をしてしまっているからである(しかも、人事評価の観点からは厄介のことに、その主観の判断結果から行動を起こしていることが一般的には、日々の生活ではほとんどであるからである)。例えば、街や電車などで見かける他者の言動などに、「あれは良くない」と感じることも読者の皆さんは、身に憶えがあるだろう、これは主観である。また、ネットにおける購買活動において、物品・書籍等の購入およびホテル・飲食店の予約等の口コミ情報を参考にすることはもちろん、自ら書き込むことやSNSに投稿することも日常生活で体感したり、習慣化している方もいるだろう、これも(多くは)主観である。つまり、我々はこうしたいわゆる主観による評価の場面に数多く出くわして生活を送っているのだ。

しかし、人事評価結果は、「組織メンバーの処遇に反映」し、「組織メンバー本人の能力開発」にも関りが強く、加えてそのきっかけとなる働く意欲への影響もある。さらには、上位方針実現に向けた「組織としての業績向上」にも関りがある上、管理者はその判断した評価結果に責任があり、時には説明が求められる。だからこそ、客観性、事実ベースの情報による判断が必要となる

このことからも、日ごろの記録を正しく残すことが有効であることはご理解いただけるだろう。

(イ)振り返りの重要性

評価を付けたあとは振り返りが重要である。人事評価の目的のひとつである能力開発・人材育成の観点に着目すると、振り返りをすることで人は大きく変化・成長できると考える。その理由は現状や課題の認識、また、得意分野等を自ら可視化することが可能であるからである。

なお、振り返りについては、管理者からの評価はもちろん、組織メンバー自身の自己評価と合わせた2軸で考えたい。管理者は記録した事実をもとにメンバーに対する評価、フィードバック、ならびに次期に向けた課題設定を行う。一方、メンバー自身の自己評価における気づきや発見も当然、ある。管理者の評価と組織メンバー自身の自己評価が重なる部分もあるが、一方で、管理者の指摘からのみ発見できること、また、管理者には見えないがメンバー自身でのみ発見できること、両面がある。

こうした考え方を活用して能力全体を広く認識することが有効であることはもちろん、管理者、メンバー双方がともに見落とす可能性がある、ということを認識した上で協同して活用することこそ醍醐味といえる。管理者、メンバー双方が尊重し合う意識により、指摘事項に対しても素直に受け入れやすく、より多くの気づきも得られ、評価対象者の成長に繋げることができる。

このことから、管理者は自身だけでなくメンバーにも日々の事実を記録させる重要性を説き、実践させることが重要である。

(2)管理者として必要な心構え・姿勢

①組織メンバーの働く意欲の喚起

繰り返しになるが、人事評価の対象は顕在化される結果や姿勢・行動の事実である。一方で、メンバーに目を向けると、その原動力となっているのは一人ひとりの「意欲」や「スキル」であり、さらにそれを司っている要素となるのが、本人の「考え方」にあると筆者は考える。
確かに、人事評価は業績、執務態度、発揮能力と顕在化できるものが対象であるが、その目的が、人材育成や組織の業績向上につながっている、という点を鑑みれば、単に評価するのみではなく、その人の内面にある意欲やスキルを高め、行動変容を促すことができることが理想である。そのため、組織メンバーが何で意欲が高まるか等、管理者はメンバー一人ひとりの考え方を知ることが望ましく、だからこそ、日ごろから組織メンバーとのコミュニケーションを通して、個々の「考え方」に触れておく必要がある。

②管理者自身の絶え間ない自己研鑽

メンバーの働く意欲に影響する大きな要素のひとつが、管理者の言動であることは間違いない。このことからも管理者自身は常日頃から、自らを律して組織メンバーの信頼を得ることに誰よりも努める必要がある。管理者も自身に課せられている業績目標を常に意識し、その達成に向けた日々の努力は当然のこと、また、基準となる執務態度、発揮能力等を実直に遂行する必要があり、自問自答を繰り返しながら、自己研鑽、人間力向上に努めなければならない

③面談機会の活用

管理者は日ごろから働きやすい職場づくりを心掛けることも重要である職場では、普段から極力、話しやすい雰囲気を作っておくことが求められる。そのためには、人事評価でよく言われている面談機会を活用することは有効であろう。もちろん、面談の目的は期初、期中、期末等、場面・場面でそれぞれ異なるが、メンバー一人ひとりと個別に話をすることで、メンバーの本音や思わぬ背景が見えることも多い。面談の頻度、所要時間等についてはさまざまな手法があり、近年は週1回30分などという方法もいわれているが、全メンバーとじっくり時間を取るタイミングとしては、一つの評定期間が半年程度であれば少なくとも期初、期中、期末に1回ずつは設定し、時間もそれぞれ1時間程度は持ちたい。

また、面談全体において、注意したいことは面談時間中の発言を極力、メンバー中心で進めることであり、決して管理者からの説得にならないことである。管理者がメンバー一人ひとりを少しでも知る努力を行い、メンバー自身の個々の働く意欲の源泉に触れる機会を持つことで信頼関係の構築にも繋がっていく。

以上、人事評価は、処遇への反映だけでなく、組織メンバーの能力開発・人材育成、また、組織としての業績向上や組織活性化に向けた貴重なツールとなることをご認識いただくとともに、管理者自身の成長にも繋がる極めてやりがいの高い業務であることが少しでも伝われば幸いである。

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