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「SDGsを中小企業経営に活用する方法について」
~SDGsの基本から企業経営までの全体像を説明~

城南支部 安藤 一彦

私は東京都中小企業診断士協会の「BCP・CSR研究会」の会員であり、また城南支部認定「中小企業SDGs支援専門家養成コース」の講師・事務局でもあります。
これらの活動などを通じて得られた「SDGsに関する知識、研究成果および経験」を基に、中小企業診断士が中小企業様へ「SDGsの概要」や「SDGsを経営に活用する方法」などを説明する際に必要となる全体像について、以下に述べます。

●構成
Ⅰ SDGsとは
Ⅱ SDGsの目標とターゲット
Ⅲ SDG Compassの5ステップの紹介
Ⅳ 企業でのSDG Compassの活用状況

Ⅰ SDGsとは
最近、SDGs(持続可能な開発目標)は良く聞く言葉ですが、その中身や企業経営への活用方法については、あまり知られていない。
SDGsは「ビジネスを通じて現在や将来の社会課題を解決する」手法としても活用できる。まずは、SDGsの第一歩について述べる。

1.SDGsとは、その背景
SDGsはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、国連サミットで採択された国連加盟193ヶ国が達成を目指す2016年から2030年までの国際目標。
世界は様々な課題に直面しており、世界規模の課題を解決するために、SDGsでは「17の目標」、それを達成するために「169のターゲット」を設定している。なお、「17の目標」に無縁な人は地球上に誰一人といません。
SDGsに先立ち、MDGs(ミレニアム開発目標)が国連ミレニアム・サミットで採択され、開発途上国に対して設定して実施されたが(2000~2015年)、SDGsではその結果の課題や格差などを踏まえて全世界に拡大された。

2.SDGsに関する調査
中小機構の「中小企業のSDGs推進に関する実態調査(令和4年)」によれば、
●SDGsの取組状況では:
SDGsの取組状況について「現在すでに取り組んでいる」(11.6%)、「今後取り組んでいく予定」(19.0%)を合わせた割合は 30.6%となった。一方、「今後も取り組んでいくか否かは未定である」が 40.7%と最も多くなった。
●SDGsの取組みに向けた課題では:
SDGsの取組みに向けた課題は、「何から取り組めばよいの分からない」が 21.0%と最も多く、次いで「取り組むことによるメリットがわからない」(19.3%)、「SDGsに取り組む方法に関する情報が少ない」(16.4%)などが続いている。

3.SDGsを取り込むことによるビジネスチャンス
①生存戦略になる:今後、大企業が取引先を選ぶ条件になってくる可能性がある。また、社会のニーズとマッチした持続可能な経営を行う際の戦略として活用できる。
②新たな事業機会の創出:地域との連携や新しい取引先やパートナーの獲得につながり、新たな事業の創出等、今までになかったイノベーションやパートナーシップを生み出すきっかけになる。
③企業イメージの向上:SDGsの取り組みを発信していくことで、企業の信用性が高まり、人材不足の中でも離職率が減り、意欲的で多様な人材の確保につながる。
④社会課題への対応:SDGsには、社会が抱えている様々な課題が網羅されており、これらの課題に対応していくことで、経営リスクの回避と共に、社会への貢献や地域での信頼獲得につながる。
(出所:環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド・第2版」の一部を筆者が編集)

Ⅱ SDGsの目標とターゲット
本章では、最初にSDGsを理解する際の入口となる「17の目標と169のターゲット」について述べ、その後で「SDGsを経営に組込む手法(ツール)」の概要を述べる。

1.SDGsの17の目標と169のターゲットの紹介
「17の目標」
「17の目標」は世界のあらゆる国、政府、自治体、企業、団体、個人などに関係し、社会・環境・経済などに幅広く関係する概念であり、ここでは目標の内容について、下表に簡単に述べる。

番号 目標の内容 分類*
目標1 貧困をなくそう 社会
目標2 飢餓をゼロに
目標3 すべての人に健康と福祉を
目標4 質の高い教育を みんなに
目標5 ジェンダー平等を実現しよう
目標6 安全な水とトイレを 世界中に 環境
目標7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標8 働きがいも 経済成長も 経済
目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10 人や国の不平等をなくそう ガバナンス
目標11 住み続けられるまちづくりを 社会
目標12 つくる責任 つかう責任 環境
目標13 気候変動に 具体的な対策を
目標14 海の豊かさを守ろう
目標15 陸の豊かさも守ろう
目標16 平和と公正を すべての人に ガバナンス
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう

(出所:東京都中小企業振興公社「SDGs経営ハンドブック」)
(出所:*は環境省による分類)

「169のターゲット」の例
ターゲット(目標の実現に向けた活動)は目標ごとに複数設定されている。
●目標1
→1.2貧困状態にある人の割合を半減させる
→1.3貧困層および脆弱層に対し十分な保護を達成する
●目標12
→12.3一人当りの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンの食品ロスを減らす
→12.4化学物質や廃棄物の適正管理により、大気、水、土壌への放出を減らす

(出所:環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」)

2.SDGsを経営に組込む手法(ツール)の利用調査
経営に組込む手法の利用調査では、SDG Compassが75%と最も多く、次にGRIガイドラインが50%となっている。

ツール 2016 2017 2018 2020*
SDG Compass 78 % 63 % 67 % 75 %
SDGs Industry Matrix 42 31 29 29
GRIガイドライン 47 52 50
GCNJが提供している資料 53 36 49
経団連行動憲章実行の手引 32 39

(*出所:GCNJ,IGES「コロナ禍を克服するSDGsとビジネス~日本における企業・団体の取組み現場から~」

3.SDG Compassの概要

  • SDG Compass(SDGsの企業行動指針)とは、GRI、国連グローバル・コンパクト、 WBCSDの3団体が共同で開発した“SDGsを経営戦略に組み込むためのツール”のこと。
  • SDG Compassの目的は、企業がいかにしてSDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定し管理していくかに関して、指針を提供することである。
  • 指針では、企業がSDGsに最大限貢献できるように、5つのステップ(次のⅢで説明)を提示している。

Ⅲ SDG Compassの5ステップの紹介
本章では、SDGsを企業経営に組込む際に使用されるツール「SDG Compassの5つのステップ」の概要について述べる。

ステップ1 → ステップ2 → ステップ
.     ↑               ↓
.      ←ステップ5 ← ステップ4 ←

●ステップ1:SDGsを理解する
①SDGsとは何か
・SDGs(持続可能な開発目標)は、MDGs(ミレニアム開発目標)を継承しつつ、貧困撲滅のための取り組みなどをより広くとらえた開発目標であり、更に持続可能な開発の経済的、社会的、環境的側面に横断的に関わる課題を広く含むものである。
②企業がSDGsを利用する背景
・将来のビジネスチャンスの見極め
・企業の持続可能性に関わる価値の補強
・ステークホルダー(取引関係者)との関係強化、新たな政策展開と歩調合わせ
・社会と市場の安定化

●ステップ2:優先課題を決定する
①企業活動の川上から川下までを可視化し整理すると、SDGsの目標を見つけやすくなる。
②「サプライチェーン」の各プロセスから自社の課題を、「バリューチェーン」の各分野から自社の強みや弱みを見つけ出し、SDGsと関連付けてみる。

●ステップ3:目標を設定する
①主要業績評価指標(KPI)を選択する
・目標の対象範囲は、ステップ2で決定した優先課題から導き出すことを推奨する。
・KPIは、進捗をモニタリングして、進捗状況について情報発信する際の基盤となる。
②ベースライン(特定の時点/問題)を設定し、目標タイプ(絶対/相対目標)を選択する
・各目標についてベースラインを設定することが重要である。
③意欲度を設定する
④SDGsへのコミットメントを公表する

●ステップ4:経営へ統合する
①持続可能な目標を企業に定着させる
②全ての部門に持続可能性を組み込む
③パートナーシップに取り組む

●ステップ5:報告とコミュニケーションを行う
①効果的な報告とコミュニケーションを行う
②SDGs達成度ついてコミュニケーションを行う
(出所:GRI、国連グローバル・コンパクト、 WBCSD:「SDG Compass」、https://www.sdgcompass.org/)

Ⅳ 企業でのSDG Compassの活用状況
本章では、中小企業および大企業等の「SDG Compassの活用状況」に関する調査データを述べると共に、「SDG Compassのステップ4と5」に関係する大企業の公開事例についても述べる。

1.中小企業の例
中小機構「中小企業のSDGs推進に関する実態調査(2023年)」によると、SDGsの取組みに係る進捗状況は、

  • 「SDGsに対する理解を進めている段階」(SDG Compassのステップ1に相当)が40.0%を最も多く、次に「自社で取り組む優先課題を検討・決定している段階」(ステップ2に相当)が25.5%となっている。
  • ステップ゚5に相当する「取組みを外部に公表している段階」が4.5%と、最も少なくなっている。
  • 即ち、多くの中小企業は、SDG Compassの入口(ステップ1)となっている。
SDG Compassのステップに相当 割合%
ステップ1(SDGsを理解している段階)
ステップ2(優先課題の検討・決定段階)
ステップ3(目標の設定段階)
ステップ4(事業に取組んでいる段階)
ステップ5(外部に公表している段階)
40.0 %
25.5
14.5
16.0
4.0

(出所:中小機構「中小企業のSDGs推進に関する実態調査(2023年)」)

2.大企業の例
IGES発行の「SDGs進捗レポート2022~GCNJ会員企業・団体の取組現場~」によると、調査対象はGCNJ会員企業・団体437会員で、(日本の)大企業が80%以上占める。

  • 大企業では、SDG Compassステップ5まで進んだ企業が37.2%と最も多い。
  • SDG Compassステップ2~4が全て減少した一方、ステップ5が37.2%まで増加した。
  • 従業員数別に見ると、10~249人ではステップ゚1の35%が最も多く、250~4,999人ではステップ2~4に回答が分散、5,000人以上ではステップ5が50%以上占め、従業員規模によりバラつきが大きい。
SDG Compassのステップ 割合%
ステップ1(SDGsを理解する)
ステップ2(優先課題を決定する)
ステップ3(目標を設定する)
ステップ4(経営へ統合する)
ステップ5(報告とコミュニケーション)
11.2 %
13.9
17.9
19.7
37.2

(出所:IGES(公財・地球環境戦略研究機関)「SDGs進捗レポート2022」)

3.SDG Compassのステップ4と5の公開事例
大企業などでのSDG Compassのステップ4(経営に統合する)とステップ5(報告とコミュニケーション)の「実施状況と掲載項目」をサイト検索し、その結果を以下にまとめた。

  • 掲載項目は各社バラバラである。
  • 各社ともに、重要課題(マテリアリティ)と目標(KPI:主要業績評価指標)は掲載されている。
  • 掲載した企業は、「ステップ5(報告とコミュニケーション)」も実施していることになる。
  • 一連の作業で、中小企業の例はほとんどヒットしなかった。
企業名 主な掲載項目
日本光学工業(株) 基本方針 マテリアリティとKPI重点施策(部署) 目標値 投資計画
カルビー(株) 2030ビジョン 中期経営計画 経営目標 ESGデータ
リコーグループ マテリアリティとESG目標 経営戦略とマテリアリティの特定 マテリアリティとSDGs
住友林業グループ 中期経営計画 基本方針 業績目標 サステナビリティ編2024(評価指数、部署)

(出所:「マテリアリティ(重要課題)」と「目標」を基に、各社のサイトを検索して整理した)

Ⅴ むすび
今回は、主に公開されている情報を基に、「SDGsを中小企業経営に活かす方法」の全体像について述べたが、今後、中小企業への支援実績を積み、実際に支援した事例についても、発表したいと思う。

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