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【特集】第2期「中小企業海外展開支援講座」の成果報告

ワールドビジネス研究会 小澤 徹

1.ワールドビジネス研究会(WBS)について

ワールドビジネス研究会は、東京都中小企業診断士協会の認定研究会である。
研究会内外との連携・交流などを通じ、海外情報の収集と共有、中小企業の海外進出や国際取引の支援に必要な知識とスキル向上、内外ネットワークの構築と醸成などを図り、国際派診断士としての自己の成長を目指している。会員数は約200名である。
WBSでは、いわばそのスピンオフ的な活動として、分科会活動も行われており、その一つである「研修事業分科会」が、今回紹介する「中小企業海外展開支援講座」を運営している。
本稿ではその第2期講座が、コロナ禍をはじめとする環境変化に対し、どう取り組み、講座の意義や価値を高めてきたかを
① ハイブリッド方式の円滑な運営
② ワークショップの進め方の改善
③ 新たなテーマの導入
の3点の講座運営ツールを通して紹介する。

 

2.ツール開発の経緯と講座の概要・特色

(1)経緯
中小企業診断協会のホームページに掲載されている「中小企業の海外展開支援業務と知識体系」(『体系』)は、診断協会の依頼を受け当研究会のプロジェクトチームが2017年2月に作成したものである。
この『体系』は、診断士が中小企業の海外展開支援を行うにあたり、必要な業務と知識を体系化したものであり、非常に有用なものであるが、あくまでもやるべきこと、知っておくべきことを体系化したものであり、実務経験の豊富ではない人にとっては、やや取りつきにくいものであることは否めない。
この点を補い、多くの診断士の方々に海外展開業務の理解を深め、より効率的に支援業務に携われるように学べる講座を研究するために、2017年8月に研究会の中に「研修事業分科会」を設置し、講座の規模、内容、カリキュラムなどの研究開発を行った。
約2年間の準備期間を経て、2019年6月に『体系』をベースとした 「中小企業海外展開支援講座」(『講座』)第1期を18名の受講生の参加で立ち上げた。
カリキュラムに関しては中小企業の海外展開支援に必要とされる下記の内容について、それぞれ具体例や講師の体験を織り込んだ講義内容で、全10回の講義を行った。

【図表1:講座の内容と各期のコマ数】

  テーマ 第1期 第2期
1 海外業務全般 基礎知識等 5 4
2 輸出関連 5 6
3 海外直接投資関連 8 7
4 海外展開に係る管理関連 3 5
5 海外直接投資計画書策定を疑似体験するワークショップ 6 6
6 リスクマネジメント 3 2


(2)第2期の状況
第2期は2020年10月から17名の受講生で全10回の『講座』を開講した。
新型コロナ禍の影響で、第1期の最終第10回目および修了式がオンラインでの開催となったが、第2期はWith コロナのもとでの研修スタイルとして、対面とオンラインのハイブリッド方式で開講した。そのため、① ハイブリッド方式の円滑な運営 ② ワークショップの進め方の改善、③ 新たなテーマの導入についての工夫が必要となった。

① ハイブリッド方式の円滑な運営
会場参加とオンライン参加の並列で行うハイブリッド方式では次のような取り組みを行った。しかし、第2期も相次ぐ緊急事態宣言により、第3回目以降の講義が全てオンラインのみでの開催となったため、ハイブリッド方式は、取り組み途上で中断となった。

【図表2:講義方法の課題と取り組み、成果】

課題 取り組み 成果
同じ資料を、会場ではスクリーン、オンラインはPC画面で見ることに 投影資料の文字の大きさや図の見易さに配慮 完全オンライン移行後も継続。受講生アンケートでも大きな不満はなし
オンライン受講生とのコミュニケーションの取り方 インタラクティブな講義を意識。挙手機能等を用い、オンライン受講生からのアクションを促すなども 講師の目線を、会場の受講生と、PCカメラを通じたオンライン受講生に向けることの難しさを感じた
ワークショップ等でのグループワークの方法  Zoomのブレイクアウト機能の活用 ハイブリッド開催時には音声ハウリングの問題が発生。改善途上であり、第3期への繰越課題に

開講時点で、受講生、講師・スタッフともに、Zoomなどのオンライン会議には慣れていたため、オンラインのみの開催であれば、問題なく遂行できる自信があったが、会場での対面講義と、オンライン講義の同時開催では色々と課題があがった。
講義資料は、文字を大きく見やすくする、投影資料を受講生に事前共有し、大きな問題は生じなかった。
一方、講師の目線をどうするかは、動画を録画してYouTubeにアップすることも考慮しなくてはいけないこと、さらに音声ではハウリングの問題。これら2つの課題については改善を試みたが、ハイブリッド開催は2回しかできず、本質的な解決は第3期への繰越となった。

また第2期では10回の全講義を録画し、欠席した受講生の補講や、復習を行うためにYouTubeにアップロードを行った。
動画の作成、YouTubeへのアップロードにあたり、講師・スタッフの多くが外部の動画プロデューサーによる研修を受講し、動画作成や編集についての技術や知見の取得を行った。
動画した講義はコンテンツとして、『講座』以外での活用も期待でき、企業研修などを含めた様々な可能性を考えていきたい。

② ワークショップの進め方の改善
『講座』のセールスポイントの1つのワークショップについても、オンライン環境に対応すべく改善の取り組みを行った。
ワークショップは実在する企業をモデルに、研修用に編集を行った対象企業が海外進出を検討するにあたって、内部環境・外部環境分析から、必要な情報収集、事業計画書の作成、最終的な進出の可否検討までを、数人からなるチームでグループワークとして行うものである。
講義の中でのチームディスカッションや、中間発表も含めたプレゼンテーションを行う以外にチームごとに集まり、個人ワークをもとにしたチームとしてのビジネスモデルの検討や事業計画書の作成を行い、企業の海外進出支援の疑似体験ができることが特徴である。

【図表3:ワークショップの概要】

第1期は最終回以外、会場での開催であったが、第2期はハイブリッド方式で開催するにあたり、ワークショップの運営に関し下記の課題があった。

【図表4:オンラインでのワークショップの課題】

(課題1)チーム打合せの開催

 

第1期は講義の日の、昼休みや終了後に対面での打合せが出来た
初対面同士の受講生が、オンラインで活発な意見交換が可能か
オンラインの場合、ファシリテーションの重要性が高まる
(課題2)講師とのコミュニケーション

 

会場であれば、講師に気軽に質問などができる
講師側も各チームの進捗が把握でき、アドバイスや軌道修正も出来た

これらの課題に対応するため、第2期ではワークショップに支援講師制度を取り入れた。支援講師は、受講生に比較的近い世代の講師が、それぞれチューターのような役割で各チームに1名を任命し、講座開講日以外のオンライン打合せにも原則参加することで、上記の課題への対応を行った。

支援講師の役割は以下の通りである。

  • 各チームの打合せには支援講師も参加
  • 打合せ進行のサポートや、課題作成のアドバイスを行う
  • 必要に応じて、ファシリテーションを行い、議論の活性化を図る
  • 各チームのワークショップ課題の進捗状況の情報収集を行ない、次回講義でのワークショップの進め方の参考とする

実際は、各チームのリーダーは皆、海外業務経験も豊富で、リーダーシップを発揮し、最終発表では講師陣の期待を上回るプレゼンを行うことが出来た。

支援講師として、チームのサポートをして感じたことは、各チームには海外経験の豊富な人から全くの未経験者までいたが、

  • 経験のある人は自らの経験を活かして、チームを引っ張り、リーダーシップを発揮
  • 経験の少ない人も、新鮮な目線での意見の提言や、効果的なプレゼン資料の作成のアイディア出しなどで貢献
  • 結果としてチームワークがうまく機能し、受講生各人が自分の海外経験のレベルに見合った成果を得られたと思われる

③ 新しいテーマの導入

第1期は海外製造拠点設立にウエイトを置いた講義が中心であったが、第2期では、「FTA・EPAとその活用」「食品の輸出展開」「サービス業の海外進出」の3つ新しいテーマの講義を導入し、人事や法制度などの講座枠を拡大した。

背景には、第1期の受講生アンケートの結果から、サービス業の海外進出支援に対するニーズが強いこと、コロナ禍の影響で、海外直接投資やインバウンド需要が大きく減少するなか、海外からの関心が高い日本の食品輸出に活路を見出す中小企業が増えてきていることがある。また、海外の人事や法制度に関しては、他で学べる機会が少ない領域であり、講義枠の拡大を行った。

新しい講義を加えるにあたり、他の講義の集約を行う必要があったが、海外拠点の設立に関連する内容は、ワークショップの中で受講生が自ら調べ考え学べるものもあるため、関連した講義数を集約し、それらの講義内容はワークショップを通して学ぶことで、必要な知識を吸収できる形にした。

受講生アンケートでも、新規の講義は概ね高い評価を受けた。第3期でも、新たな講師やスタッフを迎え、受講生のニーズや、環境変化に即した講義を新たに取り入れた。

(3)講座の概念図

第2期に行った3つの取り組みを反映させた『講座』の仕組みをまとめたものが、図表5の講座の概念図である。

【図表5:講座の概念図】

『知識体系』をベースに、講師の実績や経験を踏まえ、最新の情報を取り入れた講義内容で必要な知識を習得することができ、ワークショップでの支援の疑似体験を通じて、海外ビジネスができる診断士を育成する『講座』の仕組みをまとめたものである。

(4)第2期の振り返り

上記のように第2期『講座』は、コロナ禍での環境でもハイブリッドやオンラインという形式で講座運営のツールとしての価値を高めてきたものと考える。上記の3つの課題への対応に加え、今回の『講座』で得られたことは次の2点である。

 ① 全国からの多数の受講生の参加
 ② 研修コンテンツの確立

① 全国からの多数の受講生の参加

第2期受講生の約半数が北海道から九州に渡る東京地区以外からの参加であった。オンラインにより、距離の壁が取り除かれた格好の事例といえる。講師・スタッフにとって、第2期開始前には予想していなかったことであった。地域を越えた国際派診断士の交流の場ができたことは大きな収穫であった。

② 研修コンテンツの確立

今回、動画を録画してYouTubeを通して受講生が聴講できる環境に取り組んだこと、ワークショップをリモートのオンラインで遂行したことで、講師・スタッフが多くの知見を得ることができた。

本『講座』のセールスポイントである、講師の経験に基づいた海外展開支援に関する講義内容は、研修コンテンツとして魅力があるものと考える。実際に、2021年6月には金融機関の業界団体からの依頼があり、1日(3コマ)の研修講義を行った。

本『講座』は中小企業の海外展開支援を行う診断士のための講座という位置づけは今後も継続していくが、『講座』のコンテンツは診断士以外の一般企業や金融機関等にもニーズがあるものと考えられるので、それらへの展開も検討していきたいと考える。

(5)受講生の声

最後に、『講座』第2期の振り返りとして、受講生の声を紹介する。『講座』では各回の終了後に受講生フィードバック(アンケート)を行っており、定量(点数)定性(コメント)両方につき回答をお願いしている。

以下は、最終回のフィードバックで講座全体についてのコメントの抜粋である。

  • リモートでの開催は、愛知からの参加の負担が少なく助かった
  • 慣れないオンライン講座を快適に受講できる環境を整えていただき、ありがとうございました
  • ワークショップでは実際に自分で手を動かして事例企業の疑似コンサルができたことは貴重な経験となりました。今後のコンサル業務に活かしていけると思います
  • 経験豊富な受講生からワークショップを通じて学ばせていただくことが多く、大変勉強になりました

 

3.今後の展開

2021年10月に第3期講座を開講した。コロナ禍で海外ビジネスは停滞気味であるが、オンライン展示会やコミュニケーションツールの普及により、海外ビジネスの市場はよりボーダーレスとなってきており、コロナ後を見据えた動きも出始めている。

我々は、この時期にこそ、確かな海外ビジネスの支援ができる国際派診断士を一人でも多く育成していく事が、今後の診断士の活躍の場を広げるためにもなると考えている。

また、第2期では東京地区以外の受講生が多く参加したが、海外支援の情報や資源が東京に集中しており、それ以外の地域では研修の機会も限られていることが分かった。

第3期も全国各地から多くの受講生が参加しており、地域を越えた診断士同士の交流の機会や、地方における海外展開支援業務の活性化も期待したい。

最後に改めて、次の3つの『講座』の基本理念、かつセールスポイントを紹介させていただきたい。

① 「中小企業の海外展開支援業務と知識体系」に準拠する講義内容
② 海外ビジネスや企業支援で実績と経験の豊富な講師が、「知識の提供だけでなく、成功と失敗を含めた豊富な経験を踏まえて講義する」という、他の研修・セミナーでは類を見ない講義内容。
③ 海外ビジネスに必要な「事業計画」の作成の基本を複数回のワークショップを通じて、経験・成功方法を体感。

今後もこの理念を継承することで、海外展開を行う中小企業や、それを支援する診断士のために貢献をしていきたいと考える。

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