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【特集】コミュニケーションに必要な最低限のビジュアルを準備するための「実践的写真セット」の開発

実践的プロモーション研究会(中央支部)
鈴木克実、木村洋一、川崎佳朗、増田浩一、池田明広、
飯田保夫(社会保険労務士)、大谷秀樹

1.はじめに

(1)プロモーションにおける「写真」の力

事業の大きさを問わず、プロモーションにおけるインターネットの活用が加速度的に増加している。代表的なツールには、ホームページ、ブログなどのオウンドメディアと、FacebookやInstagramなどのアーンドメディアがある。これらのツールにおける表現に、ビジュアルが欠かせない要素となっている。

ビジュアルには、写真や動画などがある。なかでも写真は、スマートフォンの普及によって高性能カメラ機能を誰もが手軽に扱えるようになった背景もあり、最も多用されているビジュアル要素である。

写真は、文章の7倍と言われる情報量を瞬時に相手に伝えられるため強力なコミュニケーション力を持つ一方で、使い方によっては誤った印象を伝えてしまう影響力の高い要素でもある。したがって、事業のコミュニケーション担当者は「適切な写真を選ぶ」素養を高めることが求められる。

(2)組織内コミュニケーションにおける「写真」の力

写真は、プロモーションつまり組織外に向けたコミュニケーションだけでなく、組織内のコミュニケーションにも有用なツールである。

一般的に、組織内の意識共有や意思決定を行う場面では「言語」を用いることが多い。言語は情報を論理的かつ明確に伝達する機能に優れるが、表現の余白が少ない「左脳的」ツールである。具体的には「何となく」「ぼんやりとであるが」「おおまかに言うと」「整理しきれていないが」といった空気感や行間のニュアンスを排除しがちな特徴を持つ。

一方の写真は、受け手によって捉え方に「遊び」を認め、かつ大まかな印象を伝えることができる「右脳的」ツールである。また、その余白部分を議論し深掘りすることで、当事者が認識していなかった気づきを生み出すことも可能である。

したがって、事業や表現のコンセプトを組織内でまとめるためのツールとしても有用と言える。具体的には、企業理念の策定、強みや市場機会の整理、戦略の策定などの議論に写真を加えることで社内のコミュニケーションの活性化が期待できる。

(3)写真活用の支援ツールを開発

当研究会では、写真の持つ上記の特徴を踏まえ、組織内外のコミュニケーションにおける写真の活用を支援ツールとして開発した。本論文ではその概要を述べる。

2.研究の概要

(1)インスタグラムを軸として開発

インスタグラムは、人々の写真を使ったコミュニケーション文化に焦点をあてた雑誌感覚で楽しまれているSNSである。ビジネスアカウントを利用することで事業の情報発信に活用でき、ECとしても利用可能なことから事業者の利用も爆発的に増加しており、支援要請も多い。

インスタグラムの投稿は、基本的に写真と説明文で構成されており、写真をアイキャッチとして説明文に引き込む構造となっている。この構造はシンプルであり、かつコミュニケーションの基本であることから、インスタグラムのリテラシーを高めることで、ホームページやブログなどのインターネットツールの運用、さらにチラシやPOPなどへの活用が期待できる。

しかしながら、支援先のインスタグラムの運用をみると、「とにかく投稿を」との意識が先に立ち、成り行き的運用になっていることが散見される。成り行き的な運用は、散漫な印象につながりやすいことから期待する効果に至らない場合があるほか、いわゆる「ネタ切れ」につながりやすく継続的な運用を困難にする。また、前提となる計画がないため効果測定も行いにくい。したがって時間的にも人的にも制約がある小規模事業者や中小企業では、戦略的な運用が課題となる。

これらのことから、当研究会ではインスタグラムの活用を中心に、写真ツールの具体的運用を継続的に支援した。以下、事例を交えて紹介する。

3.「実践的写真セット」の概要

(1)「イメージを伝える写真」と「説明役の写真」

一般的に写真には二つの機能がある。一つはイメージを伝える作品としての機能、もう一つは情報を伝える説明役としての機能である。映画などの動画制作や組み写真の手法においても全体を俯瞰的に説明する部分と、個別詳細な説明部分が必要と言われている(*1、*2)。

今回は、この写真の二つの機能をバランスよく活用することが効果的な運用につながると仮説を立てて、これまでの支援事例などをもとに議論し、最低限必要となる写真の種類を「実践的写真セット」と名付けて研究を進めた。

(2)「実践的写真セット」の準備手順

訴求点発見ツール

まず、言葉を用いて大まかな方向性を合わせる。その際に、当研究会が昨年開発した「訴求点発見ツール」を活用した(下図参照)。考え方は3C分析と同様である。

具体的には、顧客ニーズを起点に、強みを活かし競合の特徴と差異化を図るポイントを訴求点すなわち「訴求コンセプト」として抽出する。

打合せ風景

次に、確認した訴求点にあわせて写真を持ち寄り、その写真を元に議論を拡散させる。訴求点発見ツールで確認した方向性に、写真により余白部分や行間の議論を加えることができ、理論と情緒のバランスをとることが可能となる。

これらの議論を「実践的写真セット」に当てはめて収束させる。ツールに当てはめることで抜け漏れを防ぐとともに、計画への落とし込みも容易になる。

最後に、「実践的写真セット」を土台に、実際に使用する写真を用意する。用意するための方法については、①自分たちで撮影する、②レンタルフォトから選択する、③カメラマン等に外注する、などの方法がある。いずれの方法をとる場合でも、ブレのない訴求につなげることができる。なお、インスタグラムはコンテンツのオリジナリティを重視して投稿の重み付けを行っており(*4)、レンタルフォトの利用は避けた方が無難である。

(3)実践的写真セットに付加したその他の要素

①トーン&マナー

トーン&マナートーン&マナーとは、表現において統一すべき世界観、デザイン上のルールのことで、広告業界のクリエイティブ分野で使われている用語である。トーン&マナーは、コンセプトを軸に、キーカラーやキーフォント、キービジュアルなどの要素で定義される(*3、右図参照)。

一般的に、インスタグラムのユーザーは、気になる投稿には「いいね」や「フォロー」などのインタラクション(反応)でコミュニケーションを行うが、その際に投稿主のプロフィールを確認する。プロフィールには過去の投稿がグリッド状に一覧表示されており、その印象は意思決定に大きな影響を及ぼす。そのため、写真セットにおいてもトーン&マナーを決めることが重要な要素となる。

②写真の構図

写真の構図には、横長の「横位置」や縦長の「縦位置」、さらに正方形の「スクエア」などがある。従来は、ポートレイトは縦位置、ランドスケープは横位置のように使い分けられてきたが、インターネットの閲覧デバイスについてスマートフォンが8割を占めるようになった現在では縦位置やスクエアが主流になりつつある。撮影する場合は、ひとつのテーマについてそれぞれの構図を用意することが望ましい。

(4)支援事例

① 居酒屋H店の場合

H店は、日本酒(なかでも純米酒)の品揃えを特長とする居酒屋である。「日本酒ファンに、楽しみながら好みの純米酒の銘柄を見つけてほしい」という理念のもと、恵比寿に店を構えた。

料金を気にすることなく自由に数多くの銘柄を楽しめるよう、定額飲み放題の「利き酒放題」をメニューとして提供するユニークな店舗である。

支援では、訴求ポイント発見ツールを用いて訴求コンセプトを見出した。その上で、店主が撮りためていた写真のリストを見ながら、「どの写真を、特にお客様にアピールしたいか」と議論を進めて、以下のように訴求ポイントを明確にした。

  1. 店頭の格式ある格子戸や入り口の香炉を魅せることで「非日常へのいざない」を表現する。
  2. 季節の花とインテリアを魅せることで「季節ごとに飲み頃となる純米酒の存在」を彩る。

このように明確にした訴求ポイントをもとに、ホームページのトップ画像をスライドショー形式にリニューアルした。数秒に1回写真が切り替わる仕様とし、店頭→入り口→インテリア→店内へと、“店内へのいざない”を表現した。特に未だ来店したことのない新規顧客に対して、当店の魅力を最大限伝えられるような工夫を施すことができた。さらに、インスタグラムを通じて「その季節の飲み頃となる純米酒」を継続的に発信した。

〈訴求点発見ツール〉

H社 訴求点発見ツール

 

〈実践的写真セット〉

イメージ説明1説明2説明3
店頭全景日本酒の銘柄アテインテリア
H社店頭全景H社日本酒の銘柄H社アテH社インテリア

② マタニティ用ウェディングドレスメーカーL社の場合

L社は、マタニティ用ウェディングドレスのメーカーである。一般にウェディングドレスはレンタルで利用されることがほとんどであるが、授かり婚が増加している昨今の結婚式事情のなかで、マタニティ用のウェディングドレスは存在せず、オーバーサイズのドレスの寸法を詰めての対応が一般的である。L社はこのような現状に一石を投じることを理念としている。

支援では、まず訴求ポイント発見ツールを用いて訴求コンセプトを確認した。

妊娠により日々体型が変化するなかでのドレス選びや、体調などへの不安も抱えている人に対し、変化する体型に合わせながらボディラインを美しく保つデザイン等を提供することを訴求するという方向性を確認した上で、訴求コンセプト「花嫁さんのあらゆる不安を解消し最高の一日をお届けします」と設定した。

次に、写真セットについて、「イメージを伝える写真」はウェディングドレスを着たモデルの写真とし、最高の一日を説明するためにブーケなどの小物や着付けのシーン、さらにデザイナーの思いを込めたデザインやパターンの開発風景を組み合わせて構成した。

また、トーン&マナーは、白や生成りをキーカラーに展開することとした。

〈L社の訴求点発見ツール〉

L社 訴求点発見ツール

〈L社の実践的写真セット〉

イメージ写真説明写真1説明写真2説明写真3
ドレス小物着付け写真開発風景
L社ドレスL社小物L社着付け写真L社開発風景

4.開発したツールの効果

「実践的写真セット」は、3(2)項の準備手順で述べたとおり、訴求点にあわせて写真を持ち寄り議論する過程がある。これについて、議論経営者から「写真を通して当店の売りを考えることで、一度冷静に、強みを考える機会になった」「お客さんの目線を通して、考えられたような気がする」「自分でも気づかなかった、言葉にできていなかった、当店の売りポイントが明確になった」などのフィードバックを得た。

また、イメージを伝える写真と説明役の写真を区分したことで、「投稿のバランスがわかりやすくなった」「ネタに困らなくなった」などのフィードバックを得た。

さらに、3(3)項で述べたトーン&マナーについても、投稿に統一的な印象を持たせることができた。

5.今後の予定

今回の研究テーマは、令和3年度に発表した「訴求ポイントやコンテンツの切り口発見ツール」を、より具体的に写真の運用に展開したものである。今後は、コミュニケーションツールとしてより注目を集めている「動画」への展開を予定している。

参考文献

*1:「動画の文法 トッププロが教える「伝わる動画」の作り方」神井護 著、技術評論社 刊
*2:「染谷學の組写真教室―きほんのきから応用まで」染谷學 著、日本写真企画 刊
*3:「売れるデザインのしくみ -トーン・アンド・マナーで魅せるブランドデザイン」ウジトモコ 著、ビー エヌ エヌ新社 刊
*4:インスタグラムの代表であるAdam Mosseri氏の2022年4月21日のツイート

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