中小企業施策研究会5月例会
~中小企業診断士が知っておきたい【電子帳簿保存法のポイント】~
中央支部 福田 裕司
5月9日(火)の例会では、税理士法人TAG経営代表(中小企業診断士・税理士)の長瀬充寛氏により、「中小企業診断士が知っておきたい【電子帳簿保存法のポイント】」と題してご講演頂きました。
長瀬氏は、税理士として30年前に独立され中小企業診断士とのダブルライセンスを活かし、現在は名古屋を拠点に税理士法人を経営する傍らで、当研究会にも参加され、名古屋商工会議所・春日井商工会議所等公的機関の専門相談員や、経営支援、セミナー講師などで幅広くご活躍中です。
今回の講演では電子帳簿保存法(以下電帳法という)の改正のポイントについて、事例をあげながらそれぞれの留意事項について、診断士目線で掘り下げて頂きました。
1.電帳法の概要(改正内容、保存対象と保存法等)
電帳法とは、紙での保存が義務付けられていた税務関係の帳簿や書類を、一定の条件を満たせば電子データとして保存できるようにする法律で、1998年(平成10年)の税制改正の一環として制定されたものの、要件が厳しく普及が進まないことから令和3年度に改正されました。その要点は、事前承認制度を廃止し、検索機能やタイムスタンプ要件を緩和する「緩和措置」と、電子取引データの電子データ保存を義務化(2024年1月から適用)し、違反時の罰則が強化(45%の重加算税、青色申告取消措置等)する「強化措置」により、本格的な導入を促すことのようです。
電帳法では保存区分は①電子帳簿等保存②スキャナ保存③電子取引データ保存の3区分があり、対象帳簿等別に保存方法と実施義務を以下のとおり定めております。①国税関係帳簿(元帳・仕訳帳・その他帳簿等):パソコンを使って作成する帳簿類であり多くの企業が会計ソフトを使っているため、クリアできる。また電子データ保存は義務ではなく、紙で保管する事も可。②国税関係書類(見積書、請求書、契約書、領収書等):相手から紙で受領した領収書や請求書等は、スキャナ保存が必要とされるがこれも義務ではない。 ③電子取引データ(メール、ECサイト経由、アプリ決済等) :PayPayでの支払、アマゾンや楽天での購入、クレジットカード決済、取引先から請求書をメールで受領した等の電子取引は、今回の変更で電子取引で受領したデータは紙での保存が不可となり、電子データとしての保存が義務付けられました。
2.電帳法の留意事項
第一に国税庁が認定した優良な電子帳簿(JIIMA認証情報リストに記載された会計ソフト)を使用すること、第二に時刻認証業務認定事業者(TSA)が発行するタイムスタンプが利用できるスキャナを使用すること、第三に電子データ保存の所定要件(真実性、保存期間、検索性、可視性)を満たすこと。
3.中小企業の電帳法対応と課題
第一に、電子取引データ保存に対応する段取りとして以下①~④があります。①取引先と受け渡ししている電子取引データをもれなく把握する②電子取引データの保存法を検討する③どの媒体(サーバー、クラウド、個人PCなど)で保存するか決定④法定保存期間(法人事業者7年、個人事業者5年)を保存できる体制、社内ルールか見直す。第二に、専用ソフトを使用しない場合は次の2つの方法があります。①請求書データに規則性を持たせ保存する方法(a請求書のPDFファイル名に「年月日_取引先_金額」例えば「20230701_国税商事_110,000」とする。b取引先、年月など任意フォルダーに格納する)②請求書データに連番を付して内容は検索簿で管理する方法。
4.令和5年度税制改正見通し
電子取引についての宥恕措置(電子取引データの電子保存に変えて紙(出力書面)で良い)は令和5年12月31日までですが、新たな猶予措置が講じられるか今後注意していきたい。
以上の説明終了後に、参加者からも活発な質疑があり、例えば「カード決済の場合に利用明細では領収書にあたらず購入時のスクリーンショット保存が必要」といったご説明を頂きました。
私たち中小企業診断士はこのように電帳法の要点を理解すると共に最新の情報収集に努め、対応が遅れがちな中小企業に対し理解を促し、税理士等の専門家活用も視野に入れた伴走支援が重要であると改めて認識した例会となりました。