商店街研究会 9月例会
高円寺純情商店街の視察
城南支部
塩沢 秀人
残暑まだ続く9月9日(土)、商店街研究会は「高円寺純情商店街」を訪れた。商店街の愛称は、ねじめ正一氏の同名小説が1989年に直木賞を受賞し、翌年にテレビドラマ化されたのを機に用いられ、一挙に全国に知れ渡った。法人組織の名称は、現在も「高円寺銀座商店会協同組合」である。
高円寺の駅名は「宿鳳山高円寺」に由来する。駅では、その発車メロディが阿波おどりの囃子(はやし)であることにまず気づく。「東京高円寺阿波おどり」は、本場徳島を除けば日本最大となっている。高円寺は戦前から住宅や商店の密集地だったが、高度成長期以降には上京した学生や単身者から人気が高い街でもある。フォークやロックの音楽文化が根づきはじめると、ライブハウスやスタジオが次々と開店し、今なお続いている。次いで書店や古書店、さらに古着店や雑貨店なども目立つ街になった。駅北口に立つと、ロータリーの向こう側に、高円寺純情商店街のアーチが目に入る。左手の路地沿いの青果店や惣菜店には、昭和の風情がまだ漂っている。JRの高架下は、最近になって飲食店群がリニューアル開業したが、ここもレトロ感を強調している。
アーチをくぐって今回目的の商店街を散策すると、駅へ行き交う人の流れは、土曜の昼下がりでもやや足早に感じられる。道路形状が変わる兆しはなく、道路拡幅の計画は進展していないようだ。協同組合の事務所には「まちの駅」が併設されていて、ここで協同組合専務理事の吉田善博氏から、「アフターコロナのイベントなどの展開」について、ご説明をいただいた。
(1) 近年の商店街の状況
区域内の店舗数は約250、組合加盟店は200である。
昔からの生業店は経営者の高齢化にともなう後継者不足で減少している。幸いにも、駅近で立地がよいせいか、閉店があっても空き店舗は生じていない。後継の店舗にはナショナルチェーンが多い。
かつてのような“商店街らしさ”は薄れ、つながりは弱まってきている。特にコロナ禍でイベントでの交流が減った影響は大きい。
(2) 組合の各種活動のうち今回ご説明があったもの
① 「純情ブランド」事業
組合加盟各店の魅力ある商品を組合として商店街のマップで紹介。
米、清酒、アクセサリー、マッサージなど多様なジャンルで展開。
② 山形県西置賜郡飯豊町との連携
「JA山形おきたま」の青年部が杉並第4小学校で稲作指導の出前授業を行ったのが契機。
置賜産米「はえぬき」を商店街事業の「純情ブランド」に認定。
商店街に開設されたアンテナショップ“IIDE”で、産直品や特産品を販売。
小学生向けに農家に2泊できる農村体験留学事業も展開、商店街の事業費でバスをチャーター。
③ 子どもたちが参加するイベント
小学校が行う町探検や職場体験への協力。
④ ゲストハウス高円寺純情ホテル
組合加盟の経営者が所有する物件を改装した民泊施設の開業にともなって、2018年から運営に参画。
インバウンド向けに商店街ブランド品の多言語販売も実施。
⑤ 街路灯LED化によるエネルギーコストの削減
都や区の補助金の活用で水銀灯をLED照明に交換して、光熱費削減効果が年間280万円。
(3) コロナ禍以降
① 2020年2月以降は、街から人が消えた。飲食店の多くはテイクアウトを模索しはじめ、商店街で
はテイクアウト関連の情報を発信して支援した。
② 飲食店では、タブレット端末による精算や、チェーン店でのセルフレジが急速に普及した。
③ 阿波おどりの休止で、組合は事業費に困窮した。今年は4年ぶりに再開したが、警察や消防との事前協議は厳格化し、警備や誘導の要員増も必要になっている。学生で参加するボランティアの学内承継が途切れる懸念があったが、過去に参加した卒業生が後輩の指導にきてくれた。
(4) 今後の事業施策
東京都が実施する「未来を創る商店街支援事業」の支援対象商店街に決定した。隣接する商店街との協働で3年間に渡ってこの事業を活用し、商店街が核となる地域ネットワーク化を目指す。具体的には、まちづくり会社の組成、安全安心や次世代の人材育成など持続可能なまちづくり、阿波おどりを活用したブランディング、地域情報の発信などといった取り組みを、地域と一体で推進する。
以上、今回は高円寺純情商店街が環境動勢に即応して、個店や来街者はもとよりステークホルダー各方面と関係を築いてきた沿革と、当面の計画や展望を知ることができた。東京都の事業の活用による、次なる成果を楽しみにしたい。また、吉田専務理事のお話ぶりからは、高円寺銀座商店会協同組合の舵取り役としての、その卓越したマネジメントを、研究会一同感じ入った次第である。