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研究開発に関する顧客ニーズ及び診断や支援事例 5/25

研究会部 木島 研二

はじめに

今まで企業診断ニュースに診断や事業性評価に関連した事例を紹介させて頂いた。その中で引用した事例もあるが、改めて研究開発テーマに関する顧客ニーズ及び診断士として実施した支援事例(診断、調査、評価等)と特徴について記載した。
これらの事例は過去に関わった研究開発テーマから選定したもので、顧客(依頼元)の関心は研究開発結果の実用化であるが、研究から開発の間には「魔の川」があり、開発から事業化の間には「死の谷」があると言われている。
そのため技術や市場の動向を考慮した研究開発業務の診断と事業性評価が重要となった。中小企業に独自の有力な技術や製品があれば、大企業との共同開発やサプライヤーになり、大学や研究機関とは産学連携になり、さらに投融資案件の対象にもなりうる。

1.顧客ニーズと診断士としての対応

研究開発については研究機関や企業がその分野の専門家であり、様々な情報交換や各種調査も進められていて、専門の調査機関に市場や技術動向等の調査や分析も依頼している。従って、今後の研究開発戦略、実現性、応用製品や事業性に関して、専門家というより第三者としての見解等を求められることも少なくなかった。
診断士の業務としては、①研究開発内容の理解、②顧客ニーズの対応、③関連市場や技術動向の調査と分析、④事業性の検討、⑤診断と評価の報告書のような流れになる。業務の実施体制として関連技術に知見のある企業技術系OB、士業(技術士、診断士、弁理士等)と連携したり、必要に応じてミニチームを構成した。
②は研究者や管理者のヒアリングと協議、③については①②を基に各種調査と分析を行い、④は技術と市場からの検討、⑤は顧客への報告及びディスカッションのような進め方になる。業務に当たっては研究テーマや顧客ニーズに応じた契約になる。

(研究開発から実用化の一般的なステップ例)
基礎研究→応用研究→製品開発→試作・評価→量産設計→量産製造→市場投入
*知財のステップ:基本特許→応用特許→改良特許→意匠・商標→ノウハウ
*技術のステップ:基礎技術→応用技術→関連技術→生産技術→改良技術→保守

2.調査・評価の課題と対応

企業の場合は競合企業や代替技術、応用製品や事業化の視点が重視されるが、一般的に大学や研究機関は事業化や知財に関するニーズは企業ほど強くはなかった。
1)対象技術の調査・分析
関連する技術動向と見通し、競合や代替技術、関連する研究機関や企業及び技術の調査を行うがSWOT分析で考えると「強みと弱み」が技術の競合比較、「機会と脅威」が事業化や市場に関連する。研究開発成果の応用では経営方針や事業戦略等から対象市場を想定するが、製品化に複数の技術を活用する場合は、他者との競合または連携の視点も重要となる。
2)知財の調査・分析
知財に関連したテーマでは、①権利化した特許の経済的価値試算、②保有特許からの研究開発や事業戦略、③保有特許からの連携検討、④知財の創出と活用のコンサル等があった。
知財は技術の公開情報であり、関連する知財出願や権利化状況を調査・分析すると、その企業の研究開発戦略や事業化の方向等が推測できる。知財状況によっては、自社の知財戦略(守りと攻め、連携要否、オープンイノベーション等)の方針も検討できる。知財はその企業の公開情報と併せて検討することで、研究開発の状況や事業化の方向等を推測できることもある。
3)市場調査
研究開発テーマの出口(応用製品や事業化)に対して関連市場の調査があるが、市場規模、参入適否、競合と競争力、製品ライフサイクル等の課題もある。さらに顧客が対象とする既存市場と可能性のある新規市場が考えられる。広範な市場調査では専門企業への依頼や調査レポートの活用もあるが、研究開発テーマや製品・事業戦略から可能性のある市場と応用製品のアイデアを提示して顧客と協議するような対応も求められた。
4)公開情報の調査・分析
企業のIR(特に研究開発、事業戦略等)、学会発表、技術雑誌、展示会、業界団体、国会図書館の文献等が有力な情報源となる。学会発表や展示会等では、専門家や担当技術者は意外と具体的な情報開示をしてくれる場合がある。
例えば展示会等で名刺交換をしておくと、必要に応じ問い合わせを行うこともできる。公開情報に関しては広報部門、内容によっては研究開発部門に直接聞く場合もある。応用製品や事業化を考えると、ユーザ候補企業にヒアリングすることも有力である。
5)守秘義務や情報公開
「知財の創出と活用」の視点から、基本、応用、改良ステップの各出願戦略や研究開発の情報公開(学会発表等)の可否やタイミングと守秘も重要となる。産学連携では大学側が学会発表をしてしまい特許出願が難しくなる事例もあった。
産学連携に関する契約書の検討や支援も行ったが、守秘義務に関して企業側は先生の管理や留学生の参画、学生の就職先に懸念を示す場合もあった。一方で守秘義務に敏感な大学は、大学としての管理、先生および学生個々の守秘義務や管理も行っていた。

<研究開発テーマと対応事例>

1.大学に関連した事例
大学関係では一般に基礎的な研究が多いが、ベンチャー企業立ち上げや企業連携等により事業化活動も拡大している。また中小企業向けの研究開発相談や支援対応、産学連携の拡大、補助事業の申請等も支援テーマとして挙げられる。
1)特定分野の研究開発事例
医療やヘルスケア分野の多様な研究テーマに関して、技術や市場の動向調査を行うことにより各テーマの活用の方向性や事業可能性を検討した。さらに保有する高度な測定・分析機器等の有効活用、中小企業への支援サービスの提案が求められた。
2)産学連携のパフォーマンス調査(経産省事業)
経産省の継続的な調査事業であるが、実用化の視点から連携先になる大・中小企業、金融機関、自治体等も対象としてアンケートとヒアリングを並行して行い、パフォーマンスに関連する調査・分析を行い専門委員会にて報告と質疑を行った。
3)知財の評価と活用
以前は知財の優先度が低い時期もあり、保有知財の棚卸しも兼ねて技術力と事業性の評価のニーズもあった。以前に全国の大学の知財や産学連携部門を対象に、「知財の創出と活用」のテーマで講演をする機会もあった。この講演の背景には大学でも事業化に繋がる知財活動重要性及び、弁理士と診断士の連携も必要という考え方もあった。

2.国の研究機関に関連した事例
国の研究機関でも各種施策や補助事業において、実用化の視点や事業計画策定等が求められてきた。さらに中小企業との連携、技術移転や相談等のテーマも挙げられた。
1) 宇宙航空関連事例
知財の創出は従来から進められてきたが、さらに知財の関心を高めて活用(実用化)につなげたいニーズがあり、①「知財の創出と活用」セミナー、②知財活用の事業計画策定、③中小企業への技術移転等を実施した。また、保有特許約500件程度の棚卸として技術・事業性の簡易評価と技術移転候補の検討を行った。
2)原子力関連テーマ(国立研究開発法人)
原子力関連技術の応用として、半導体分野の新素材開発テーマの技術・事業性評価を実施した。この中で事業可能性に関連した企業の調査から最終的に私大研究開発の補助事業の支援につながった。研究所から応用企業、関連大学と多様な関係者の調査・分析が役立った。

3.投融資に関連した研究開発事例
投資の場合はリスクを考慮した実現性や事業可能性がポイントとなったが、融資の場合は事業化の確実性が求められた。
1)総合商社の投資事例(海外ベンチャー)
商社は多様な投資案件を扱うが、重要なテーマとして次のような精査評価があった。
米国ベンチャーの事例では、①企業及び商社の資料(技術、知財、事業)の精査、②米国の開発拠点の現地調査、③ユーザ候補メーカのヒアリング調査と総合的な事業性評価を行った。
2)官民ファンドの投資事例(国内ベンチャー)
自動車関連企業への投資案件であるが、新事業の技術開発と生産関連をミニチームで担当し、開発現場の診断や技術動向調査を担当した。市場調査は大手コンサルファームが担当したが、報告会と投資適否の共同検討会にも参画した。
3)新興市場の上場審査の事例
上場審査の検討資料として、創薬ベンチャーの技術や知財及びビジネスモデルの調査・評価が求められた。技術や知財の強みとビジネスモデルを基盤とした成長性や持続性が上場審査のポイントとなった。
4)経産省調査事業の事例(ナノテクベンチャー企業の調査)
ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)に参画した時に、ベンチャーキャピタルVCと連携して経産省のナノテク調査事業を受託した。ナノテクベンチャー企業の技術と事業を調査・評価して、VCの視点も含め調査報告を作成した。
5)メガバンクの融資事例(画像技術)
大手企業からスピンアウトしたベンチャー企業向けの量産設備融資案件であった。新画像技術とライセンス知財、ビジネスモデル及び対象市場の調査・分析を基にした事業性評価を行った。

4.大手企業に関連した事例
自社内での事業化の対応、研究開発戦略、知財活用、連携事業の可能性等のニーズに応じて調査、分析した事例があった。
1)新素材の応用製品(化学材料企業)
新型ディスプレイに関する素材技術と保有知財を基に、ユーザ候補の知財状況や製品技術の調査及び公開情報により保有知財面より連携事業の可能性を検討した。
2)次世代パワー半導体(電子材料企業)
シリコンに代わる新素材のパワー半導体に関し、保有する知財や技術をベースに事業性評価を行った。それを基に製品化の方向性や研究開発戦略について協議を行った。
3)認証システム(大手関連IT企業)
開発した認証システムやS/Wに関して、技術や市場動向の調査・分析から事業可能性の検討を行ったが、技術者と管理職による企業内の事業検討会にも参画して支援を行った。

5.中小・ベンチャー企業に関連した事例
自社内での研究開発戦略と応用製品及び事業化の検討を行う形が多かった。事業内容によっては、大手企業との共同開発や事業連携も選択肢になる。
1)デジタルサイネージ(広告業)
新規事業として、デジタルサイネージの技術開発や製品化を進めていた。技術や市場の動向調査及び経済的価値試算を行い、事業戦略及び新規事業の方向性や可能性、投資対効果の検討等を行った。
2)光学部品(樹脂部品企業)
将来のモバイル機器に応用する高精度の光学部品の開発と製品化に関して、株主への説明資料の一つとして事業性評価と経済的価値試算を実施した。
3)研究開発の促進(ヘルスケア企業)
最初に新事業である医療分野の新規テーマを調査・評価し、さらに新たな事業分野のアイデア創出や社内活性化のため、研究開発業務の提案の仕組みを提案して社内試行した。

6.補助事業の評価や審査事例
研究開発関連の補助事業に関する公募審査や支援事例であるが、書類審査及びプレゼンと質疑により、技術面と事業面の審査が行われた。
① 経産局(戦略的基盤技術高度化支援事業)・・・開発と事業化の連携活動も重要
② 神奈川県(ベンチャービジネス事業)・・・技術とビジネスモデルも重要
③ 沖縄県(ベンチャービジネス事業)・・・地域資源活用の視点も重要
④ 特許庁(特許情報分析支援事業)
中小企業の研究開発を支援するため特許の調査・分析を行うが、研究開発や事業化の計画を弁理士と診断士が連携して審査をする形態であった。

<研究開発テーマの対応まとめ>

研究開発分野では、急速な技術革新、デジタル化の拡大、市場やニーズの変化等が事業化に大きく影響している。企業の強い関心は研究開発の実用化(応用製品や事業化)であるが、技術や市場動向調査と分析、競合や代替技術の状況、及び事業性評価が重要となる。
一方、大学や研究機関の場合は基礎研究が多いが、国の研究開発補助事業でも実用化の視点が求められてきた。基礎的な研究では実用化まで時間のかかるテーマも多いが、中途の成果段階でも知財創出や実用化に向けた取組みが必要である。また単に事業化や収益面だけでなく、基盤技術として波及することや社会貢献も重要である。
研究段階では将来の実用化や事業化を意識して、技術や市場及び社会の動向等を定期的に調査・分析すること、開発段階では製品化を意識して性能、品質、コスト、生産や流通等を関係者と具体的に検討していくことが必要である。
診断士としては診断や調査だけでなく、研究開発の現場診断、製品化のアイデアや対応、事業性評価等も求められたが、様々な専門家との連携により多様なテーマに取り組めた。
研究開発テーマの事業性評価では実用化に課題やリスク等の不確定要素があり、事業環境の変化の影響も考えられる。従って調査や評価には可能性も含めてある程度幅を持って柔軟に対応し、考え方を報告書に反映するとともに顧客への説明や協議も重要となる。
昨今はI/Nの情報により詳細調査も可能であるが、複数の情報や関連情報を見て精度や適否を判断したり、内容によっては関連組織や研究者の直接のヒアリングも必要となる。さらにAIも進化して顧客側も診断士も様々な活用が広がりそうであるが、診断士としては多様な現場の診断、独自の調査と分析、それらの多面的な評価、及び顧客との対話等がますます求められそうである。

(関連文献:事業性評価他)
① ベンチャーキャピタルと中小企業診断士の連携(経産省)
企業診断ニュース2009年6月号
② 産学連携活動のパフォーマンスに関する現状調査と分析(経産省)同2013年8月号
③ 地域中小企業の知的財産戦略支援事業(九州経産局)同2010年6月号
④「投融資に関する技術力・事業性」同2021/12号

木島 研二(きじま けんじ)

総合電機にて研究開発、設計、製造、顧客対応等に従事。この間、多くの大・中小企業と開発やものづくりで連携を行う。その後、知財・技術・事業の評価やコンサルティング、中小製造業を中心に診断や支援活動を行う。現在は東京都のゼロエミッション(脱炭素)支援プロジェクトに参画している。
中小企業診断士、知的財産管理技能士、省エネエキスパート。
E-mail:kkijima@ab.ejnet.ne.jp
(著書概要)『顧客視点の成長シナリオ』(共著、ファーストプレス)、『再生可能エネルギーの技術動向と最新ビジネスモデル2015』(通産資料出版会)、『コンサルティング・ビジネス虎の巻』(共著、日本地域社会研究所)、『痛感シニア川柳100選』(文芸社)
『イナズマメソッドで成功する事業承継』(共著、株式会社きんざい)

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