外国ルーツ人材との共創が拓く中小企業の未来

ダイバーシティ研究会 安藤雄三
第1章:労働市場のパラダイムシフトと経営の前提としての外国ルーツ人材
現在、我が国の中小企業を取り巻く経営環境は、未曾有の人手不足という構造的課題に直面している。各種調査によれば、中小企業の過半数が「人手不足」を最大の経営課題として挙げており、労働力の確保は企業の生存をかけた最優先の戦略課題である。
こうした社会の新たな担い手として存在感を高めているのが「外国ルーツ人材」である(本稿における「外国ルーツ人材」は、文献[1]で定義されている「国籍にかかわらず父母の両方又はそのどちらかが外国出身者である者」と定義する)。文献[2]によれば、国内の外国人労働者数は過去最多の257万人を突破、13年連続で増加の一途をたどっている。近年の日本の就業者増加数のうち、実に過半数(約52%〜60%)を外国人労働者の増加が占めるなど、外国ルーツ人材との共生・共創はすべての中小企業にとって避けては通れない「経営の前提」へとパラダイムシフトしている。
一方で、外国ルーツ人材の重要性が高まっているにもかかわらず、実際に雇用している中小企業はまだ限られている。文献[3]によれば、回答企業の約57%は外国人を雇用したことがなく、特に小規模企業ほどその傾向が強い。言語の壁や生活面の支援負担といったマネジメントコストへの懸念が、導入の大きなハードルとなっているのである。
依然として一部の企業では、外国ルーツ人材の受け入れは「単なる数合わせ」や「社会貢献」の枠組みにとどまっている。本稿では、客観的データや先行研究、筆者が関わった事例を踏まえ、外国ルーツ人材と日本ルーツ人材が互いの違いを意識して対峙する「Vs.」の関係から、共通の目的に向かってそれぞれの強みを活かす「With」の関係へ転換するための実践的なアプローチを考察する。
第2章:「効率性の罠」と、イノベーションを生むダイバーシティ
文献[4]では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮される機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義している。
多くの中小企業がこの価値創造に踏み切れない背景には、長年培われてきた「効率性の罠」が存在する。同質性の高い日本ルーツ人材同士なら、言葉にせずとも「阿吽の呼吸」で仕事が進む。このように前提を共有した同質的な環境は目先の業務効率が良く、短期的な業績を追うミドルマネジメントほど依存してしまうケースがある。
同質的な組織は居心地が良い反面、過去の成功体験に縛られ、組織の硬直化やイノベーションの枯渇を招きやすい。対して外国ルーツ人材がもたらす異なる文化や経験は、組織に「新しい視点」を注入する。既存の当たり前を問い直し、新たなアイデアや業務改善を引き出すプロセスこそが、結果として企業の価値創造(イノベーション)へと繋がっていくのである。
もちろん、多様な人材をただ受け入れるだけで自動的にイノベーションが起きるわけではない。中小企業が次の一歩を踏み出すためには、目先の「同質的な効率性」を手放し、多様な知を意図的に掛け合わせて中長期的な「価値創造」へと舵を切る覚悟が求められている。
第3章:外国ルーツ人材活躍に向けた「社内」と「社外」の2つのアプローチ
中小企業が外国ルーツ人材を活かして組織変革を進めるには、社内における環境整備(社内アプローチ)と、地域・NPO(非営利活動団体)等を巻き込んだ社会との接続(社外アプローチ)という2つの軸で取り組みを整理する必要がある。これらは単なる外国ルーツ人材への配慮やCSRにとどまらず、自社の地力を底上げし中長期的な人材基盤を築く戦略的取り組みとなる。
①社内アプローチ:受入れ・定着環境のユニバーサル化
(既存組織のバージョンアップ)
即戦力化に向けた規程・ルールの明文化やITツールの導入において重要なのは、「外国ルーツ人材のためだけの特別措置」ではなく「全社員の働き方をバージョンアップする」という視点である。
属人的な「阿吽の呼吸」を明文化し、業務プロセスを再構築する作業は、若手やシニア層などあらゆる社員の業務効率化に直結する。ダイバーシティ研究会の一員として著者も参画した文献[5]でも、障がい者への環境配慮が周囲の負荷軽減や心理的安全性の向上に波及することが示されている。外国ルーツ人材に向けたルールの明文化や業務可視化も同様であり、ベテラン社員の体力・認知面を補うユニバーサルデザインとなり、既存社員の離職防止や企業の採用力強化へと波及していくのである。
②社外アプローチ:地域・NPO連携による内省と将来人材の共創
(組織風土と採用基盤の構築)
社内施策と並行して有効なのが、地域社会やNPOと連携し、将来の戦略人材となり得る外国ルーツの子どもたちのキャリア開発を支援する社外アプローチである。一見、自社の直接的な雇用と無関係に思えるこの取り組みは、組織に2つの大きな恩恵をもたらす。
第一に、「社員の内省と多様性受容の土壌づくり」である。言語や日本文化の理解が浅い社外の第三者(子どもたち)に対し、「自社の業務の魅力や真の価値」を伝えようと葛藤するプロセスを通じ、社員は自らの働き方や自社の存在意義を深く問い直す(内省する)。この社外との接点こそが、固定観念を崩し、多様な価値観を受け入れる柔軟な組織風土を育むのである。
第二に、「優秀な外国ルーツ人材の育成と将来の採用寄与」である。NPO等との連携を通じて早期から外国ルーツの若者と接点を持ち、その成長を支援することは、将来的な人材との関係構築や採用基盤の形成につながる可能性がある。特に、採用市場において大企業ほどの知名度や採用資源を持たない中小企業にとって、地域やNPO等との継続的な関係構築は、通常の採用活動だけでは接点を持ちにくい人材と出会う機会にもなり得る。
第4章:ダイバーシティの「Jカーブ」と、マネジメントの重要性
同質性の高い組織から多様性のある組織へと移行するプロセスでは、コミュニケーションコストの増大や小さな摩擦により、一時的に生産性が低下する「停滞の谷」が生じる場合がある。
この谷の存在は文献[6]にて、多様な人材はいるが、それに対応した取組を行っていない企業は、多様な人材がいない企業よりもかえって生産性が低くなる可能性が指摘されている。ただ採用して放置するだけでは図1のグラフが示す通り、組織の業績は低下したまま、十分な価値を生み出せずに終わってしまうリスクがある。
本稿では、多様性の導入から、その価値が組織成果として現れるまでの過程を、図1のような「Jカーブ」として整理する。

図1:ダイバーシティにおける「Jカーブ効果」と谷の最小化
この停滞の谷をいかに浅く、短期間で駆け抜けるか。その決定的な鍵となるのが「共通の外部目標の提示」である。社内の日常業務の効率を巡って対立するのではなく、全社で共有できる社会課題を提示することで、摩擦を「共創のエネルギー」へと昇華させることができるのだ(図1)。
第5章:経営者・後継者に求められる「率先行動」と変革の2つのステップ
多様性を組織の競争力へと転換できるか否かは、経営トップ、特にこれからの時代を担う後継者自身の「率先行動」と度量にかかっている。文献[7]においても多様な人材が組織に統合される鍵は経営層の率先行動にあると指摘されている。経営層が実行すべき実践アプローチとして、以下の2つのステップを提唱したい。
ステップ①:【経営者・後継者自身の変化】アンラーンと「度量」の拡大
組織の変革は、経営層自身の「視座の転換」から始まる。「阿吽の呼吸」に囚われた状態をアンラーン(これまでの常識や前提を一旦捨て去り、学び直すこと)し、マインドセットを変化させるには以下の2つのアクションが有効である。
(1) 疑似体験によるバイアスの自覚:多くのDE&I支援企業・団体がマイノリティを体験できるビジネスゲームを提供している。これらを活用し「自分の当たり前が通用しない理不尽さ」を疑似体験することで、無意識の特権や同調圧力を自覚する。
(2) 異文化コミュニティへの越境学習:筆者自身、職種を大きく転換することで異なるバックグラウンドの同僚と仕事をするようになり、地域コミュニティ等への参画を通じて会社・仕事では接点が持てない方々と接点を持ち協働する中で、自身の固定概念を振り払い個々人を解像度高く見ることができるようになった。経営層も自らがマイノリティとなるコミュニティへ飛び込み、リアルな体験を通じて新しい気づきを得ることは有益である。
ステップ②:【組織への浸透】クリティカル・マスの創出とベクトルの転換
経営層自身の視野が広がった後に取り組むべきは、多様性の価値を組織全体へと波及させるための確実な展開ステップである。
(1) スモールチームによる実践:多様性推進で最も避けるべきは「数合わせ」である。300人の組織に外国ルーツ人材を1人入れても同調圧力に飲み込まれてしまう可能性が高い。これを避けるために化学反応には一定の割合(クリティカル・マス)が求められる。そこで経営層主導の「新規事業」や「スモールチーム」に多様なメンバーを集中的にアサインし、高い割合で混ざり合う環境を作る。ここで成功モデルを生み出すことが全社を動かす起爆剤となるのである。
(2) 「ベクトルの向き」の転換と社外資産の活用:ここで本稿では、組織内の意識やエネルギーが向かう方向を、便宜的に「ベクトル」として捉える。自己防衛や既得権益の維持に意識が向くと、ベクトルは組織内部へ向かい、社員同士の対立が生じやすくなる。一方、社会課題など社外の共通目標を設定することで、双方のベクトルを外側へ向け、対立から共創へ転換できる可能性がある。社外の課題に触れることでベクトルが外へ向き、多様性を受け入れる意識の変化につながることが期待できる。
第6章:【支援事例】「ベクトルの向き」が変わるパラダイムシフト
前章で述べた「ベクトルの転換」がどのように組織を変えるのか。筆者が関わった自組織の取り組みを事例として紹介したい。
当初、「外国ルーツ人材」と「日本ルーツ人材」の融和を志向したものの、「日本ルーツ人材同士の方が仕事の指示が早く、正確だ」という効率性重視の声が先行した。お互いが自分のやり方や既得権益を守ろうと「内向きのベクトル」を持ち、自己防衛のために正面衝突する「対峙(Vs.)」の構図が生まれてしまっていた。

図2:対峙(Vs.)から共創(With)へのベクトル構造変化
そこで筆者は、このベクトルの向きを意図的に「外側(社外)」へとずらしてみた。「外国ルーツの子どもたちが抱えるキャリア課題の解決」という共通の社会テーマを掲げ、双方の社員がフラットにアイデアを出し合う混成プロジェクトを立ち上げたのである。検討においては、外国ルーツの子どもたちを支援するNPOの協力を得て、当事者である外国ルーツの子どもたちとの声を直接聞く機会を設けるなど、社外・第三者を含めた場づくりを意識した。
この試みは驚くべき化学反応をもたらした。多様性に対して寛容になり、自分以外の周囲や社会へとベクトルが外に向いた時、彼らのエネルギーは対立ではなく、同じ目的の達成へと束ねられたのである。外国ルーツの社員が「日本社会の壁にぶつかった自身の原体験」を当事者としてのリアルな視点を語り、日本ルーツの社員は「それを解決・仕組み化するためのフレームワークや社内調整力」を提案しだしたのである。「日本ルーツだから」「外国ルーツだから」という属性の意識は消え、彼らはユニークな強みを持った「個」として響き合い、真の共創(With)を実現したのである(図2)。
第7章:中小企業診断士の真の役割と展望
中小企業が多様性のマネジメントへと戦略の舵を切る際、我々中小企業診断士が果たすべき役割と責任は極めて大きい。単に評価制度やマニュアルを導入するだけの支援では、経営層をJカーブの谷の手前で立ちすくませてしまう。真に求められるのは、一気通貫の伴走支援である。
①ハード面の環境整備とソフト面の変革支援:
業務プロセスの可視化・IT化というハード面の整備に加え、経営層の「アンラーン」の機会設計というソフト面の変革から関わる。さらに、クリティカル・マスを生むスモールチームの組成から運用アドバイスまで、現場に寄り添った伴走が不可欠である。
②社外ネットワークとの橋渡しと「共創」のファシリテーション:
企業単体では難易度の高いNPO等との接続(資産化)において、診断士がコーディネーター役を務める意義は大きい。社外の社会課題を活用したプロジェクトを第三者視点でファシリテートし、ベテラン社員を巻き込んでベクトルを外向きの共創エネルギーへと転換させる。
③成長の「計数化」による確実な定着:
融和後の事業成長を精神論で終わらせず、「採用競争力強化やコスト削減」「離職率の低下」「生産性の向上」といった「計数(数字)」として可視化・検証し、経営層に自信を持たせる関わりこそが診断士の最大の専門性である。
人手不足が叫ばれる昨今、マイノリティ人材との共創は、リソースの限られた中小企業にとっても重要な成長機会である。そこでの悪戦苦闘と融和のプロセスは、結果として大企業には決して真似できない、その中小企業だけの「固有性」や「独自の差別化」を生み出す源泉となる。人手不足という最大の「課題」を組織固有の強みを創出する「最大の機会」へと反転させる。外国ルーツ、日本ルーツといった属性による「Vs.」の関係を超え、それぞれの強みを活かして共通の目的に向かう「With」の組織をつくる。その変革に伴走し、成果を経営指標として可視化することが、中小企業診断士に求められる役割ではないだろうか。
【参考文献】
[1]法務省(2022)「外国人との共生社会の実現に向けた ロードマップ」
[2]厚生労働省(2025)「令和6年外国人雇用実態調査」
[3]株式会社エフアンドエム(2025)「中小企業における外国人雇用に関する調査レポート(2025年版)」
[4]経済産業省(2025)「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」
[5]一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会(2026)「中小企業におけるチャレンジド人材の活躍支援についての調査研究報告書」
[6]内閣府(2019)「令和元年度 年次経済財政報告(経済財政白書)」
[7]三宮直樹(2022)「外国人雇用中小企業におけるダイバーシティ・マネジメントの類型化」