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【書評】キッチンカービジネスのすべて

中央支部 中保 達夫

キッチンカービジネスのすべて 
【登録情報】
出版社:同友館
発売日:2022/11/15
単行本:225ページ

著者
【監修】山下義 池田安弘
【著者】船橋竜祐 小林雅彦 木村和広 松井智 福田まゆみ 島津晴彦 遠藤孔仁

【目次】
第一部 キッチンカービジネス
第二部 キッチンカーによる多店舗展開
第三部 キッチンカーの多店舗展開の事例

【概要】
外食産業の店舗数は2001年がピークに減少し、ここ数年は横ばいとなっている一方、キッチンカー市場は、年々右肩上がりとなっています。東京都福祉保健局の「食品衛生関係事業報告」による、東京都で営業許可を受けている「飲食店営業の自動車数」は2018年度が3,002件だったものが2019年度には3,381件と増えています。そうした状況をうけて、出店場所等をコーディネートしてくれるマッチングサービスも増え、キッチンカー開業の追い風となっています。本書は、これからキッチンカービジネスをはじめようとする方や、台数を増やして事業規模拡大を考える方を対象に、「向いている商材は」「どれくらいの資金があればいいのか」「どんなところに出店すればいいのか」「マッチングサービス利用のポイントは?」「フランチャイズ化はどうすればいいのか」等、疑問に答えるかたちでノウハウを伝えます。

【感想】
「キッチンカービジネスのすべて」というタイトルの通り、あらゆる方面からキッチンカービジネスに関する情報が網羅されている本である。もちろん、著者全員が中小企業診断士の有資格者であるため、法規制や事業計画作成法等についてもわかりやすく説明がされている。

2020年からのコロナ禍による営業規制等で、大多数の飲食事業者は大きなダメージを受けることとなった。そんな苦境の中で各飲食事業者は色々な知恵を絞り、テイクアウト・デリバリー事業を始めた。我々のような中小企業診断士は、それらの事業者支援に携わることも多くなったであろう。この本では、キッチンカー開業にあたって、中小企業診断士である7名の執筆者が、それぞれの知識・経験をこの本で余すところなく紹介してくれている。

また、キッチンカービジネスを始めようとしている方だけでなく、事業が一定の軌道に乗って、その後の事業拡大やFC展開を検討している事業者に対しても参考となる内容となっている。

【本書を読み終えて】
〇キッチンカービジネスは簡単に始められる事業なのか?
キッチンカービジネスは、コロナ禍時に苦境に陥った飲食事業者や、他の事業から業種・業態転換した事業者が多く参入してきた事業である。

以前、コロナ禍になってキッチンカー事業を始めた経営者から経営相談を受けたことがあった。この方は、元々経営していた居酒屋がコロナ禍で営業が制限された中での打開策としてキッチンカー事業に参入をした。提供メニューは、同店の人気メニュー1品に絞ってキッチンカーで販売する戦略を取った。収支計画もしっかり立てて、一定の成果が無ければ早期に撤退する計画も立てていた。その戦略が功を奏し、都内でも屈指の人気店となる。現在は、イベント等でも引っ張りだこのキッチンカー事業者となった。

ただし、コロナ禍で同じようにキッチンカー事業を始めた同業他店の半数以上は、すでにキッチンカー事業から撤退したという話も聞いた。この事業者は、出店場所のマッチング事業者を利用して、日々の出展場所を決めていた。マッチング事業者からは、ビジネスマンが集うエリアを日替わりで紹介された。各出店エリアには、毎回5台ほどの出展業者が居たという。マッチング事業者からは、1ヶ月毎に各店の売上順位が報告される。そこで、一定期間下位になった事業者は他の事業者と入替となり、今後再び人気のエリアには出展することは厳しくなるという現実も聞いた。

設備投資も大きな負担となる。キッチンカー事業を始めるためには、まず車を購入しなければならない。また、車の購入に合わせて積込むキッチンの製作も必要である。もちろん、製作は手弁当では難しく専門業者に依頼する必要がある。キッチンカーを1台制作するだけでも、数百万円の資金が必要となる。都内であれば、車の維持費も高額となる。ちなみに、私が話を聞いた事業者は、調理する居酒屋がある都心のオフィス街近くに月額5万円の駐車場を借りていると聞いた。これらも、薄利多売のこの事業では馬鹿にならない経費である。

キッチンカーの営業許可は、「調理営業」「販売業」の2つに区分されるのはご存じだろうか。「調理営業」は、社内で仕込みをする営業スタイルである。ただし、その場合には200ℓ以上のタンクを車内に搭載するというルールがある。「販売業」は、調理・仕込みを別の場所で行い、社内では基本調理が出来ない。また、仕込みの場所は飲食業営業許可が取れている場所でのみ可能で、自宅等許可が取れていない場所での調理は認められていない。こちらも、キッチンカー事業の盲点ではないであろうか。そのため、既存の飲食事業者は「販売業」として、他業種から参入してきた事業者は「調理営業」として始める場合が多いと聞いた。これらも事前に知識が無いと、後々のトラブルとなる可能性もあるだろう。

〇中小企業診断士はキッチンカービジネス事業者をどう支援していくか。
実際にこの本を読めば、「キッチンカーは時代のニーズにマッチした事業なので、簡単に始められる事業であろう」という思いはなくなるのではないか。何となく事業を始めようと考えている方には、しっかりこの本を読み込んで判断すると良いであろう。また、許認可関係や人を採用した際に想定されるトラブル対応等も、この本では法律の専門家による対応策を記載してある。収支計画の立て方も、中小企業診断士ならではの視点でページを割いて説明してくれている。

この記事を読んでいる中小企業診断士の中には、経営相談・補助金申請等でキッチンカー事業を始めようと考えている方の相談を受けている人も多いであろう。当方も、2社ほど相談に乗ったことがある。もちろん、簡単に成功する事業ではないことは確かである。そのため、キッチンカーでどんな商品を販売するのかの選定も重要である。キッチンカー事業は参入事業者が多いため、差別化集中戦略がとりづらい事業であろう。そんな中で他店にはないオリジナル商品を生み出して、それで顧客を集められれば事業は軌道に乗りやすい。もちろん、費用対効果に合わない商品やそもそもの味・サービスがイマイチでは顧客がつかないことが言うまでもない。

また、キッチンカーはいかに効率的に人気の場所に出店できるかが非常に重要となる。この本では、この出店場所選定について4つのパターンを紹介している。最近増えているのは、大手のマッチングサービスである。こちらに関しては、かなり詳細に各サービスの特徴が紹介されていてわかりやすい。今後支援する側の人間にとっても、こちらはかなり参考になる。

キッチンカー事業は、最初個人事業主として始める事業者が多いであろう。当然のことながら、一定の収益を出していかなければ事業運営ができない。そのため、最低1~3年後までの収支計画は立てていかねばならない。事業計画を作成したことの無い方にとっては、ここが一番難儀となる。

この本では、補助金申請に関しても、かなりのスペースを使って紹介がされている。補助金申請サポートは、中小企業診断士にとって得意分野である。また、補助金の計画書を作成することは、そのまま事業計画を作成することにもつながる。コロナ禍時に生み出された補助金を活用して、キッチンカーを始めた事業者も多いであろう。また、採択されるレベルの計画書であれば、しっかりした事業計画が立てられているはずであり、事業計画を立てるという意味でも補助金申請は事業者にとっても勉強になるのではないか。

ビジネスを拡大していくという観点では、多店舗展開も有効である。こちらでは、その多店舗展開についても詳細に説明がされている。キッチンカービジネスは飲食業であり、薄利多売となる。そのため、どれだけ1台のキッチンカーで売上が立っても収益はたかが知れている。1台目のキッチンカーでビジネスが成立する見込みが立ったのであれば、台数を増やしていくことでスケールメリットも出てくるであろう。この本はFC展開についても紹介がされている。こちらは、FCビジネスに詳しい専門家が著者にいて、多店舗展開におけるFC加入のメリット・デメリットが丁寧に説明されている。多店舗展開を行うことによるデメリットもあるだろう。特に、人材採用はその最たるものではないか。コロナ禍に入ってから、飲食業経営者の経営者から人の採用がしづらくなったという話を多く聞く。

そのデメリットの対応策についても記載があるので、すでにキッチンカー事業を始めている事業者にも参考となる内容となっている。また、この本の最後には多店舗展開に成功した全5店の事例が紹介されている。その5店の事例として、飲食事業者だけでなくペットのトリミングや花の移動販売についても紹介がされている。こちらも読者には非常に参考となる事例となっている。コロナ禍が収まりつつある中で、今後キッチンカー事業者が増えていくのか、もしくは撤退していくのかは現状見えない。どちらにしても、今後我々中小企業診断士がキッチンカー事業者の支援をする際には、一度この本を手に取ってみると良いであろう。

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