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【書評】アフターコロナの「最強の販売脳」のつくり方

【登録情報】
出版社:‎ぱる出版
発売日:2021/8/26
単行本:192ページ

 

【著者】小松浩一[こまつひろかず]
1961年東京生まれ。流通ビジネスコンサルタント。
慶應義塾大学経済学部卒業。中小企業診断士、1級販売士。東京販売士協会副会長。
三越伊勢丹勤務を経て、現在、文化学園大学非常勤講師、青山ファッションカレッジ講師。
現場での豊富な経験を生かし、マーケティング、店づくり、店舗の活性化、マーチャンダイジング、業務改革、組織開発と人材育成、リーダーシップとチームビルディングなどについて、現場に則した提言をおこなっている。福祉ビジネス、まちづくりにも造詣が深い。マーケティング関連、問題解決のためのビジネススキル関連など著書多数。
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

【目次】
第1章 「未来の売り方」はどう変わるのか
第2章 売れる販売員と売れない販売員のちがい
第3章 「客の立場に立つ」と売れる
第4章 販売員が身につけたい「マーケティング脳」超入門!
第5章 これからの販売員はデジタルを味方につけると、売れる!
第6章 「本当に良い買物をした」という価値を売るために令和の販売員がすべきこととは何か

【概要】
日本の百貨店売上高第1位を誇る三越伊勢丹グループの最前線で長年販売に携わってきた経験から「令和の時代に売れる販売脳のつくり方」を伝える。デジタル化にコロナ禍が重なって、リアル店舗や販売スタッフの役割、消費者の購買アクションなどが変わった。コロナ禍が収まっても、以前の状況に戻ることはない。ますます先が見えない状況下に突入した。そんな中、「販売とは何か」「モノを売るとはどういうことなのか」を考えるきっかけとなり、これからの売り方について分かりやすく解説した入門書である。

これからの販売はどう変わるのか
コロナ後に何が起こるのか、安易なことは言えないが、コロナが過ぎたとしても、コロナ以前の状況に完全には戻らないだろう。著者は令和の販売脳を語るうえで、「アフターコロナ&アフターデジタル時代」を念頭に置き、これからの時代を構想した。デジタル化にコロナ禍が重なって、オンラインショップやテレワークの普及により、時間的制約と空間的制約がなくなってきた。自分にとって意味のある情報を入手しやすくなった。自分にとって意味のある情報しか必要としない状況になってきたと言っても良いだろう。そして、リアル店舗や販売スタッフの役割、消費者の購買アクションなどが変わった。商品・サービスを「売る」とは何なのか、根本的なところから考え直す時期にきたのである。
時代はマーケティング4.0の段階に入ったと言われている。消費者の自己実現につながる商品・サービスが求められているのである。「近代のマーケティングの父」「マーケティングの神様」と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が提唱しているこの理論。第一段階(マーケティング1.0)は、単に「良いと思った商品・サービスを買う」という段階、第二段階(マーケティング2.0)は、「この企業を愛しているので、この企業の商品・サービスを買う」、第三段階(マーケティング3.0)は「この企業は社会に貢献しているので、この企業の商品・サービスを買う」、そして第四段階。企業の活動や理念に共感し、その企業そのものを応援したいという心理が働き、その商品・サービスを他人にも推奨したい、という積極的な動きが出てくる。共感できる価値観を持つ企業の活動に対して、自分も参加する、投資するという意識でその企業と関わっていく。「販売」は、商品・サービスとお金の「交換」だけではない、それ以上のものになっているのである。

令和時代、商品・サービスを販売するために必要なこと
マーケティングは「4P」から「4C」へと変わってきたと言われている。4Pとは、モノを作って売るためには、Product(製品)、Price(価格)、Place(販路・チャネル)、Promotion(プロモーション)、この4つの要素を組み合わせて、最大の効果を目指すことが重要であるという考え方である。これがマーケティング4.0になり、4Cが求められる時代になった。経済学者のロバート・ラウターボーン氏が提唱した4Cとは、Customer value(顧客にとっての価値:Productに対応)、Customer cost(顧客にとってのコスト:Priceに対応)、Convinience(利便性:Placeに対応)、Communication(コミュニケーション:Promotionに対応)である。4Pが作り手の発想に基づいているのに対して、4Cは4つの要素を買い手の視点から捉え直し、価値があるかどうかを判断する必要があると述べている。コトラー氏もマーケティング4.0の中で、Co-creation(共創:Productに対応)、Currency(ダイナミックプライシング:Priceに対応)、Communal activation(共同活性化:Placeに対応)、Conversation(会話:Promotionに対応)の4Cを提唱している。デジタル時代の商品・サービスは、作り手と買い手の共同作業から生まれ、価格は固定的なものではなく、市場の状況で刻々と変動するようになり、特定の販路を通じて提供されるのではなく、レンタルやシェアリングなどのように所有権がなくても使えるようになり、宣伝広告は作り手と買い手の間の双方向の対話となっている。マーケティングの4Pから4Cへの変化は、買い手の立場に立って売るための「令和時代の販売脳」の出発点である。
マーケティング3.0から4.0になるにつれて、企業から消費者へと一方的に情報を発信する時代から、消費者同士の関係を含めて、企業と消費者の双方向の関係が求められる時代になった。この流れは、「自社や自店をどのようなものとして消費者に認識してもらうか」というブランディングの問題が顕在化したと言っても良いだろう。「消費者にとってどのような存在でありたいか」を考え直すことがますます必要である。
また、単なる顧客を獲得するだけではなく、顧客を「ファン」にすることも求められる時代になってきている。「顧客にどのようなイメージを持ってほしいか」「地域のためにどんな存在で、どんな役割を果たしていきたいか」を自問し、意義を見つめ直す必要がある。価格や機能だけでは差別化が難しくなりつつあるが、「この店主や販売スタッフから商品・サービスを買いたい!」「この人が薦める商品・サービスを買いたい」と思う消費者も少なくない。「モノ(商品・サービス)」以上に、「ヒト」が購買アクションにおける重要な要素になってきている。製造業であろうと、サービス業であろうと、「ヒト」を通して消費者・顧客との関係を構築する必要がある。

中小企業診断士が「自分」を売ることに通じる販売脳
私たち中小企業診断士も「自分」を売る場面に直面する。顧客であるクライアントの立場に立って、クライアントの問題や課題を自分事として捉えることは当然だが、クライアントにとって意味のあることは何かを考え続けることが重要である。例えば、クライアントが望むことを手取り足取りやってあげるよりも、クライアントが自立するためのサポートをすることのほうがクライアントにとって意味のあることだろう。
オンラインで買い物をする消費者がいろんなサイトを比較し吟味しながら買い物をするように、中小企業診断士も「どんな実績があるのか」「どんな発信をしているのか」を比較され吟味されやすい状況になっている。そのとき、クライアントに対して安心感を与えることが求められるだろう。またデジタル化が進んだ今、教科書的な知識や情報は誰でも入手しやすくなった。そんな知識や情報よりも、独自の経験に基づいた知識や情報のほうがクライアントにとって意味があり、クライアントに納得感を与えるだろう。同じ「中小企業診断士」という資格を所持していても、こだわりや経験などが全く同じ人はいないのだから、自分自身のこだわりや経験などから、人間性や独自性を打ち出し、クライアントに対して安心感や納得感を与える必要があると考える。
商品・サービスの価格や機能だけで差別化することが難しくなりつつある時代、「この店主や販売スタッフから商品・サービスを買いたい!」と消費者に思ってもらうように、中小企業診断士もクライアントとの関係のあり方や立ち位置を見つめ直すことが重要であると感じた。

評者:東京都中小企業診断士協会城西支部 梅津勝明

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