商店街の基礎知識と診断方法
城西支部 月田 逸郎
商店街研究会の12月例会は、鈴木隆男会長から、商店街の基礎知識と診断方法について講演いただいた。
Ⅰ.商店街の定義(とらえ方)
「商店街」の明確な定義はない。商店街振興組合法や中小小売業振興法等においても特段の定義はない。商業統計では「(小売店等が)近接して30店舗以上あるもの」を商店街(商業集積)としている。
1.概念上から見た商店街
商店街を概念上から見た場合、以下の2つが対比される。
(1) 空間概念上の商店街
自然発生的に形成された商業集積である。組織概念に先行して成り立つ。
(2) 組織概念上の商店街
商業者で組織される商店街組合組織(経営体)である。空間概念が前提で成り立つ。
2.立地条件から見た商店街(タイプ)
商店街を立地条件から見た場合、以下の4つに分類される。
(1) 超広域型商店街
百貨店、量販店等を含む大型店があり、有名・高級専門店中心に構成。遠方から来街する。全国的な中心都市の中心部。銀座、池袋、新宿、渋谷など。
(2)広域型商店街
百貨店、量販店等を含む大型店があり、最寄り品店より買回り商店が多い。県庁所在都市、それに準ずる都市の中心部。立川、八王子、浦和、千葉など。
(3)地域型商店街
最寄品店および買回り品店が混在し、近隣型商店街よりもやや広い範囲から、徒歩、自転車、バス等で来街する。広域型都市の中間地域。かっぱ橋本通り商店街など。
(4)近隣型商店街
生鮮3品など最寄品店中心で、徒歩または自転車等で日常の買い物をする。住宅地域。砂町銀座商店街など。
3.商店街組織の形態
(1) 法人の商店街
①商店街事業協同組合
中小企業等協同組合法(昭和24年)に基づく組合。経済活動に重点を置く。中小企業規模の小売・サービス業者が個々の営業に関する経済的活動の共同化を主として行う。全国1,200組合程あると思われる。
②商店街振興組合
商店街振興組合法(昭和37年)に基づく組合。街づくりのための地域環境の整備改善を行う。商業と関係のない製造業や大企業でも組合員の資格があり、居住者も加入できる異業種の組合。区・市でのみ設立でき町・村の行政地域では設立できない。①と違い事務所に固定資産税がかからない。全国2,600組合程あると思われる。
(2)任意の商店街
制約はないが、補助金の申請に関しては総会で合意された「会則・規則等」が必要である。全国に11,000から12,000組合ほどあると思われる。
Ⅱ.商店街組織の役割と機能
1.商店街組織の役割
商店街組織は、地域商業者の相互扶助組織であり、2つの事業を行っている。
(1)共同経済事業(ソフト事業):中元・歳末大売出し、イベントなど
(2)環境整備事業(ハード事業):アーケード・アーチ・街路灯の設置・整備など
診断士の支援対象は、この組織(経営体)でソフト事業、ハード事業、補助金申請など幅広く行われる。
3.商店街の組織機能
(1)商店会組織における意思決定構造
1)商店街組織の意思決定には、個々の商業者の意思決定と組織の意思決定の二層性がある。
2)商店街組織はボトムアップ的な地縁で結ばれた人的結合体で、平等性と任意性が担保される。
①平等性のため、共同経済事業や福利厚生事業には適しているは、迅速・戦略的な意思決定には不向きである。
②任意性により、強制的に加入させることはできない。総論一致、各論不一致の傾向がある。
3.商店街の社会的役割
地域商業機能(地域のインフラ)として3つの役割を果たしている。
(1)社会・文化的機能:まちづくりの観点、地域のお祭りなど
(2)経済的機能:地域住民に多様な買い物の選択肢の提供、生活利便性の向上に寄与。地域住民の雇用。
(3)情報発信機能
Ⅲ.令和元年 東京都商店街実態調査
直近の東京都調査が令和元年10月~令和2年2月に実施された。令和元年の調査対象は2,447商店街、有効発送数2,076件、回収率73.6%(1,527件)であり、回収率が高い調査である。
商店街数(調査対象)は、平成13年から18年間で426件減少した。事業協同組合が3.7%、商店街振興組合が21.5%で商店街振興組合の比率が高くなっている。
客層の年齢分布は60歳以上が42%で最も多い。過去の調査と大きな差はない。加入率は80%以上が49.4%と最も高い。次いで60%~80%が25.0%。大きな変化はない。
景況は「衰退」が35.2%で最も高く、次いで「良くも悪くもない」が27.8%。「衰退」「やや衰退」は減少傾向にある。主な問題点は「後継者不足」が68.4%と最も高い。後継者不足に対して7.9%で何らかの取り組みを行っている(個店か役員か明確ではない)。
空き店舗があると回答した商店街57.9%で依然として過半数の商店街で空き店舗を抱えている。3年前と比較して空き店舗数の動向は「変化なし」が52.7%と最も高いが、「空き店舗がない」理由の3割以上が「住居や駐車場になった」であり注意が必要である。
Ⅳ.商店街診断の方法
商店街診断の目的は以下のとおりである。
①商店街が置かれている経営環境を把握する。
②商店街がどのような経営資源を有し、それを活用してどのような活動を行っているか把握する。
③経営資源の活用により、どのような成果を上げているかを分析する。
④分析することで、繁栄のための経営戦略を考える。
⑤繁栄のための活動や経営資源の活用について提言を行う。
⑥意思決定や職務執行について貢献すること
商店街診断は、調査(環境調査、動態調査)→分析(SWOT分析)→提言(方向性、個別の提言)の順で進められる。メンバーに診断スケジュールを示す必要がある。
環境調査では、オープンデータを活用した外部環境調査、行政機関の情報(人口動態など)を利用した商圏調査、役員ヒアリングなどを利用した内部環境調査を行う。動態調査では、通行量調査、来街者アンケート調査、個店別実態調査を行う。
メンバーが参加して、SWOT分析を行い、提言に向けて現状把握、問題点の抽出、課題の整理を行う。
提言では、整理された課題から、商店街が進むべき方向性(戦略)、ビジョンまたはコンセプトを決める。個別の提言では、強みの強化、弱みの克服、機会の利用などから空き店舗対策、HPの改修、イベントの見直しなどを提言する。
実務的には以下が重要である。
1.診断の目的、テーマを決める
2.経営者アンケート調査票の内容を決める。1か月ほど前に事前に配布し、役員ヒアリング前に回収を行う。
3.街路調査時の調査票の内容を決める。(1)通行量調査表、(2)来街者調査表を作成する。1時間単位で担当者を決め、昼食の時間も決めておく。