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【特集】中小企業の両利きの経営 -未来を創る10の視点-

事業承継支援コンサルティング研究会
福田まゆみ(リーダー)、原田豊、小松豊、小林雅彦
北谷康生、香川和孝、須永達也、松井智、五藤宏史

1.ツール作成の経緯 -中小企業に「両利きの経営」を!-

図表1 書籍
「中小企業の両利きの経営」

 事業承継支援コンサルティング研究会では、メンバー有志による「出版プロジェクト」を通じて、2022年2月に書籍「中小企業の両利きの経営」(ロギカ書房)を出版した。本書は、中小企業の「両利きの経営」実践に向け、組織、第二創業、DX等、10の視点から新規事業展開を解説するものである。
当研究会メンバーは、事業承継を単なる法務・税務、M&A の問題と捉えず、企業経営の問題と捉えている。その観点から、承継の早い段階より「両利きの経営」支援に取り組んでおり、本書執筆に至った。

【両利きの経営とは】
「両利きの経営」とは、企業経営において、両手を巧みに使いこなすがごとく「知の探索(新規事業の発掘)」、「知の深化(既存事業の深堀り)」の両方を進めていくことをいう。
優良企業が、イノベーションや業界変化に対応しきれず、窮地に陥る。資本主義の長い歴史において、そのような事例は枚挙にいとまがない。「両利きの経営」は、こうした事象に関連する世界のイノベーション研究・最重要理論となっており、多くの学者によって研究が進められてきた。書籍「両利きの経営」は、この理論に関する初の体系的な解説書であり、アメリカの経営学者(チャールズ・A・オライリー、マイケルL・タッシュマン)によって執筆された。日本では2019年に翻訳版が出版され、ベストセラーとなった。

【本ツールの意義】
上記書籍は、他の多くの経営理論と同様、主に大企業向けに書かれている。このため中小企業の経営者が読んでも、そこから自社の実践ストーリーにつなげることは難しかった。中小企業経営者が「両利きの経営」を自らの経営にあてはめて考え、未来を構想するための書物が、是非とも必要な状況となっていたのである。
このため、当研究会は「両利きの経営」を中小企業に向けて発信するため、2021年に研究会有志メンバーによる出版プロジェクトを開始し、「中小企業の両利きの経営」執筆を行った。執筆メンバーは、大企業と関わった経験があり、書籍「両利きの経営」の事例に出てくる企業の実情をつかみやすく、中小企業診断士の視点から中小企業に向けた提言としてまとめた。

【執筆プロセス】
出版プロジェクトでは2021年3月にキックオフを行った後、事前準備として書籍「両利きの経営」および関連図書/講演等に関する勉強会を10回以上に渡って実施した。並行して、各執筆者は、得意分野に基づいた多数の関連書籍・読み込みを行った。その後、各メンバーの提案に基づいて、全体構成の骨組み、分担について協議、決定し、「執筆⇒担当分以外の読み込みと相互指摘⇒修正」のプロセスを繰り返して、完成に至った。

2.開発ツールのポイント - 未来を創る10の視点 -

中小企業が新規事業展開を行うにあたっての背景が、企業によって様々であることは容易に想像できる。このため執筆メンバーは、「中小企業の両利きの経営」を論ずるにあたって、一つの基本理論を詳細に解説するよりも、多くの視点を提供し、その中から自社に合ったアプローチを見出してもらうことが好適であると考えた。
本書では、「未来を創る10の視点」をサブタイトルとして、研究会メンバーがそれぞれの得意分野において、新規事業創出に向けての多角的な視点を提供している。

具体的には「中小企業の両利きの経営」概要について説明した後、「基本編」において、新規事業に取り組む「土台となる考え方」を解説している。次に「実践編Ⅰ」では、実践にあたって検討するべき4つの視点を提供し、更に「実践編Ⅱ」で、外部連携・M&Aの進め方を説明している。各章は25ページ程度で構成されており、各著者の専門分野、得意分野に関する伝えたいポイントを凝縮した内容となっている。
このように、本書では新規事業を検討する際のアプローチ方法について、多角的に詳しく解説しているため、中小企業が自社に最適な方向性を得ることに有用である。

図表2 中小企業の未来を創る10の視点

3.本ツールの構成

図表3 4つの要素

 序章において、「両利きの経営」概要説明の後、「中小企業における両利きの経営」において取り組むべき「4つの要素」、取り組みにおける「中小企業ならではのメリット」について説明している。ここで、「4つの要素」は中小企業の新規事業取り組みにおいて、最も基本的なポイントとなるものである(図表3参照)。
第1章から第10章においては、各視点からの詳細な説明を行っている。
本ツールの構成を以下に示す。

図表4 序章

図表5 基本編Ⅰ 土台となる考え方

図表6 実践編Ⅰ 4つの視点

図表7 実践編Ⅱ 外部連携・M&A

4.読者の声・活用事例

【読者の声】
本書籍は、全国の書店、各社ECサイト(アマゾン、Yahooショッピング、Rakutenブックス、本の通販honto、紀伊國屋書店 など)を通じて販売されている。

アマゾンでのレビュー・口コミを下記に示す。

図表8 アマゾンレビュー状況

【活用事例】
① これから新規事業に取り組む中小企業経営者
本書の特徴である「未来を創る10の視点」は、各執筆者の専門分野・得意分野に関するものであり、各章で詳細な説明がされている。新規事業の創出に取り組む中小企業経営者は、本書を読むことによって、それまで気づかなかった視点を得たり、多角的に検討したりすることが可能となる。これは、自社に最適な方向性を得るのに有用である。

② 新規事業に取り組みながら思うように進められていない経営者
本書では、それぞれの章は独立した内容となっているため、どの章から読み始めても理解しやすいという特徴を有している。既に新規事業に取り組んでいる経営者は、関心の高い分野から読み始めることにより、自社に最適な視点を効率的に得ることができる。

③ 中小企業支援者
新規事業の創出や取り組みは難易度の高い課題であり、診断士の支援ニーズが高い分野である。本書は、支援先に対する多角的な観点からのアドバイス・支援や、より説得力の高い分析・助言に役立てることができる。

④ 事業承継支援での活用
事業承継問題が生じる中小企業は老舗企業であることが多い。事業承継の局面に至ると、ほとんどの老舗企業には、古い事業から新しい事業への事業再構築が求められる。事業承継の早い段階から本書を活用し、両利きの経営を志向することが望まれる。
事業承継支援コンサルティング研究会に所属する中小企業診断士は、事業承継を単なる法務・税務、M&A の問題と捉えず、企業経営の問題と捉えている。その観点から、事業承継の早い段階より両利きの経営に挑戦するように経営支援を行っている。

5.ツール普及の取り組み

【オンラインサイトへの連載記事】
本書の内容についてより多くの人に周知するため、幻冬舎ゴールドオンライン、およびYahooニュース経済にて連載記事「経営者必読!中小企業『両利きの経営』の極意」を掲載している。「中小企業の両利きの経営」(ロギカ書房)のポイントを中心として、抜粋・大幅に再編集したものとなっている。
幻冬舎ゴールドオンラインには様々な記事が掲載されており、トータルで月間PV1億を超えるサイトとなっている。掲載記事では、書籍自体の紹介も行っており、宣伝効果は高い。
第1回記事「中小企業の生命力を高め、寿命を飛躍的に伸ばす〈両利きの経営〉とはなにか?」は、8月29日に掲載された。以後、幻冬舎ゴールドオンラインにて、計7回に渡って記事が掲載される予定である。

【更なる普及へ向けて】
大手メディアのオンラインサイトにおいて、当書籍に関するオンラインセミナーの実施を計画中である。また、対面式のセミナーについても計画をおこなっている。

6.おわりに

優良企業が、イノベーションや業界変化に対応しきれず、窮地に陥る。資本主義の長い歴史において、それが、なぜ繰り返し発生するのか。両利きの経営は、その謎解きと解決策を提示するものである。
本書籍は、中小企業が「両利きの経営」を最適な形で実践するため、当研究会メンバーが熱意を込めて執筆したものである。本書が、中小企業の末永い発展へ向けての一助となれば幸いである。

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