BCP/CSR研究会8月例会報告

「首都圏外郭放水路の紹介 ~『公助の強さ』と『残余リスク』~」
発表者:佐藤 誠吾会員
2026年8月6日(木)のBCP/CSR研究会8月例会では、佐藤 誠吾会員より「首都圏外郭放水路の紹介 ~『公助の強さ』と『残余リスク』~」と題して発表が行われた。今回の発表は、6月20日(土)に城南支部が実施した首都圏外郭放水路の見学を踏まえ、巨大な治水施設を単なる見学対象としてではなく、「水害リスクに対して社会がどこまで備え、企業がどこから自助を担うべきか」というBCP・危機管理の視点から捉え直したものである。
冒頭、近年の豪雨・台風は長時間化・広域化し、浸水被害だけでなく、物流、従業員の通勤、電力、IT、サプライチェーンなど企業活動に複合的な影響を及ぼしており、「水害BCPは経営そのものの課題」であるとの問題提起がなされた。首都圏外郭放水路は、中川、倉松川、大落古利根川などの中小河川から洪水の一部を地下へ取り込み、江戸川へ排水する世界最大級の地下放水路である。
続いて、中川・綾瀬川流域が利根川、江戸川、荒川に囲まれた低平地で、水がたまりやすい「皿」のような地形であること、市街化によって雨水が地中へ浸透しにくくなり、洪水リスクが増大してきたことが説明された。また、1594年から約60年をかけて実施された「利根川東遷」から戦後の治水政策までを振り返り、現在の首都圏の安全が長期間にわたる治水への投資の上に成り立っていることが紹介された。
施設面では、全長約6.3kmの地下トンネル、最大約70mの深さを持つ立坑、「地下神殿」と呼ばれる調圧水槽、毎秒最大200㎥を排水する大型ポンプなどの構造と洪水時の運用について解説があった。一方、こうした大規模な「公助」が整備されても、水害リスクを完全になくすことはできない点が強調された。発表の中心的なメッセージは、「公助は強い。しかし万能ではない。残余リスクを埋めるのは企業BCPである」というものであった。
企業への具体的な示唆としては、自社の浸水想定の確認、受変電設備・サーバ・重要在庫の高所化、代替拠点や在宅勤務への切替基準、安否確認・出社停止基準、主要取引先や物流網における単一障害点(SPOF)の把握、代替輸送ルートや複数調達先の確保などが挙げられた。BCPを「被災しないための計画」から「被災しても止まりにくい事業構造の設計」へ転換することの重要性が示された。
さらにCSR・ESGの観点から、災害後の寄付などの支援だけでなく、平時から自治体、商工会、近隣企業等との相互支援関係を構築し、企業自身のBCPを地域全体のレジリエンス向上につなげることが提案された。最後に、「公助に守られる範囲」と「企業自身が守るべき範囲」を明確にし、見学を感想だけで終わらせず、具体的なBCP対策を一つでも経営課題として実行に移すことが重要であるとして発表を締めくくった。