BCP・CSR研究会9月度例会報告

「BCPからERMへ、守りのリスクマネジメントから企業価値向上へ」
城南支部 岡 洋一
1.BCPからERMへ発展させる意義
2026年9月の研究会で久保田 晋爾会員から発表。講義では、従来のBCPが地震・水害・感染症・サイバー攻撃など原因別の計画書になりやすく、策定後に更新されず、平時の経営会議や経営判断に結び付きにくいことが課題として示された。一方、自然災害、サイバー攻撃、人材不足、サプライチェーン寸断、資金繰り悪化など原因は異なっても、最終的には「事業停止」という共通結果に至り、販売機会の喪失、顧客離脱、売上減少を通じて企業価値の低下につながる。したがって、原因別の備えだけでなく、重要業務と経営資源への影響から捉えるオールハザード型BCPが、ERM (Enterprise Risk Management)への橋渡しとなるとの説明があった。
2.ERMの考え方と企業価値向上
ERMは、リスクを個別部門で管理するのではなく、全社的に洗い出し、評価し、対応資源を配分し、継続的に監視・学習して経営判断につなげる仕組みである。重要なのは、リスクをゼロにするのではなく、「取るべきリスク」と「避けるべきリスク」を判断する点にある。火災・災害・事故等の「純粋リスク」は損失を抑制する一方、新商品開発、新規事業、海外進出等の「戦略リスク」は企業価値を生み得る。守りを固めて純粋リスクを減らすことで、適切な戦略リスクを取る余力を確保するという、「守りと攻めの一体化」がERMの本質である。講義では、全社的なリスク管理を経営会議、責任者、予算、戦略・業績に接続している企業ではROA・ROEなどが高いとの分析も紹介され、ERMは企業価値向上につながる経営システムとして位置付けられた。
3.中小企業におけるERMの重要性
ERMは大企業向けとの印象が強いが、中小企業こそ経営資源が限られ、一つの事故や取引停止が経営全体に波及しやすい。BCP策定では、ノウハウ・人材不足、リスク想定の難しさ、必要性を感じにくいことなどが障害となる。こうした点は中小企業診断士が支援できる領域であり、重要業務の特定、リスクの可視化・優先順位付け、対応責任者と期限の設定、経営計画との連動を支援する意義は大きい。
4.診断士が支援する際の留意事項
支援に当たっては、「ERM」「リスクマネジメント」といった専門用語や制度論を前面に出すと、経営者に難しいものと受け止められる恐れがある。研究会の意見交換でも、中小企業には、より平易で簡素な仕組み・表現が必要との指摘があった。したがって、「会社を止めない」「売上と顧客を守る」「安心して新事業に挑戦できる体制をつくる」など、経営者の関心に置き換えて説明することが重要である。また、網羅的なリスク一覧表の作成自体を目的とせず、重大なリスクを絞り込み、日常の会議・予算・担当者・改善活動に落とし込む必要がある。診断士は戦略リスクの評価を担い、純粋リスクについては保険会社などとも連携し、リスクコントロールとリスクファイナンスを組み合わせた実行可能な支援を行うことが期待される。
5.まとめ
BCPを「災害時に開く計画書」にとどめず、平時の経営と結び付け、守りの対策によって挑戦できる余力を生み出すことがERMへの発展である。中小企業診断士には、BCP支援を入口として、事業継続・収益・顧客・成長戦略を一体的に捉え、企業価値向上につなげる支援が求められる。