創業二百余年老舗醤油企業の新たな挑戦と第十二代社長の覚悟を学ぶ
城南支部 吉岡 真一
「醤油の日」である10月1日に、車窓から小江戸の街並みを眺めながらバスに揺られること30分、埼玉県比企郡の地に一目で歴史を感じさせる蔵元がシンボルの笛木醤油株式会社を訪問させていただきました。
創業は寛政元年(1789年)、以来伝統的な醸造方法を守り続け、厳選された地元の丸大豆と小麦、そして天日塩を原料にした醤油を、大きな杉の桶でゆっくりと熟成発酵させておられます。1964年の東京オリンピックの金メダルが由来の「金笛」ブランドを展開されている同社は、食べる・学ぶ・買う・遊ぶことができる「金笛しょうゆパーク」を開業されています。工場見学は「金笛しょうゆ楽校」と命名、教科書と表記されたパンフレットを使用しながら社長自ら文字通り楽しく分かりやすく醤油の製造工程をご説明いただきました。
見学の後はしょうゆ蔵のレストランで蔵出し醤油の食べ比べ、うどんをいただき、ピリっとパンチの効いた唐辛子しょうゆをはじめ、4種類の醤油を味わうことができました。
直売所ではそのこだわり醤油を購入できますが、醤油づくりのクラフトマンシップから新しい挑戦として始められた木桶バウム(バウムクーヘン)も販売されています。古き良き伝統の中に新たな取組も加わった魅力で、広告を行わずとも地元記者会等への広報や口コミにより開業から僅か3年の間に総来場者数が13万人を超えたことは驚異的で、当日も数多くの家族連れやカップルの姿を見かけました。
楽しく学んだ工場見学に先立って社長の笛木正司氏からご講話をいただきました。笛木社長は、2017年に37歳の若さで事業承継され十二代目当主として吉五郎を襲名されています。会社のトップとして日頃感じておられる想いやお考えを率直な言葉でお話しいただきました。二百三十年余の永きに亘り受け継がれてきた社業を守り続ける使命感に「四六時中仕事のことを考えており、会社のことを夢に見る」と笑って語られましたが、その重圧たるや我々の想像を遥かに超えたものがあると思います。それを克服するために数々の経営書を読んで日々勉強されており、我々にとっても参考となる書籍を多数推薦いただきました。熟慮を重ね『日本一、笑顔をつくる醤油蔵』と定めた経営理念は「木の根っこ」であり、これが揺らぐと会社が危うくなる、など説得力のある数々の話をお聞きしました。中でも印象的だったのは、1973年をピークに減少し続ける醤油市場の逆風や老舗が新規事業に取り組む際の社内の反対を、翻って推進力に変えて社業の発展に繋げようとされる社長の前向きな姿勢でした。社長の「一番大切にしたいことだけを伝え、あとはおもいっきり任せる」との指導方針の下、従業員の皆さんが一丸となりイキイキと仕事をされている企業を訪問し、我々も活力を頂きました。
笛木醤油様のような元気印の中小企業が1社でも増えるように貢献したい、との診断士としての想いを新たにした秋晴れの爽やかな一日でした。
<参考情報>
見学先:笛木醤油株式会社 金笛しょうゆパーク
所在地:埼玉県比企郡川島町上井草660
HP:https://kinbue-park.jp/