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【書評】この世は色々あって面白い 
諺から見えてくる、素敵な生き方のヒント

城東支部 入山 央

この世は色々あって面白い
諺から見えてくる、素敵な生き方のヒント
酒井正敬(著)
出版社:PHPエディターズ・グループ; 第1版
発売日: 2022/4/13
言語:日本語
単行本(ソフトカバー):240ページ
ISBN-10:4910739033
ISBN-13:978-4910739038
(表紙の画像はAmazon.co.jpより)

 

1.書籍の概要 :著者による人生を洞察する試み
「先人の知恵に学ぼう!さまざまな諺を紐解きながら、人生の勘所を楽しく教えます!80代現役の人事コンサルタントが、満を持して書き下ろす、生き方のコツ集大成」(本書の帯より)
本書は、著者が八十余年の間、考え続けていた「人生とは何か」という命題についてまとめたものである。著者は、この命題を11章のテーマ(人間というもの、人生は長いようで短い、日本人と宗教、金ほど強いものはない、友人や知人は必要だ、男と女がいるから人類は続いた、恋と色の道は命懸け、夫婦になってお互いが成長する、親と子は切っても切れない間柄、老人となる、終点ですよ)に整理した。本書はこのテーマについて1章ずつ、著者の主張が書かれたものである。
著者は著者自身だけでなく、人生を懸命に生き抜いている人の多くが、これらのテーマを「共通して体験する」としている。そして、これら11章に渡って記述したテーマについて、大昔の人々も同じことを考えていたこと、そして後世に伝えるべき教訓として、諺という「人類の叡智の結晶」になり、各地に残っていることに気付いた。そこで著者は膨大な諺のなかから日本の諺約300を選び、本書において著者自身の言葉と解釈で、一つの諺につき平均3、4行ほどの解説文を書き添えている。著者は全ての諺を『人間はピンからキリまで』『人間の定めは「生老病死」』など約90の項目に分類して、各項目の文脈に沿って諺を取り上げて解説している。
なお、本書には80代男性である著者の個人的な見解が含まれている。このことを理解した上で読み進めていただきたい。

本書目次
第1章 人間(人間というもの)
1-人間はピンからキリまで
2-人間の定めは「生老病死」
3-人間は努力すべし
4-人間の心には全と悪が棲む
5-人間は五欲の塊
6-好き嫌いは人によって異なる
7-人間の考えは千差万別

第2章 生きる(人生は長いようで短い)
1-人生は積極思考で生きよう
2-健康ほど大切なものはない
3-人生は幸福と不幸が同居している
4-自分の力量に応じて生きよう
5-人を外見で判断するな
6-成功する人
7-失敗する人
8-土地の習慣に自分を合わせよ
9-種蒔きが先、収穫は後、種は正直
10-人のせいにするな
11-生きるために学ぶことは大切だ

第3章 日本人の宗教観(日本人と宗教)
1-信心とは
2-神というものは
3-仏というものは
4-釈迦とは
5-神仏とは

第4章 万事金の世の中(金ほど強いものはない)
1-金というもの
2-金持ちになると
3-金で人の心も買える
4-富者と貧者は天と地との差
5-金で天下を動かせる
6-ケチに徹すると金は貯まる
7-金でも買えないものがある

第5章 友人や知人(友人や知人は必要だ)
1-友には「心友」と「親友」がある
2-長い付き合いの人が友となる
3-同じような考えの人が友となる
4-近所なので知人となる
5-苦しい時の友こそ真の友

第6章 男と女(男と女がいるから人類は続いた)
1-男も女も気が変わりやすい
2-男と女の違い
3-男の値打と特質
4-女の値打と特質
5-女はおしゃべりである
6-美人について

第7章 恋と色情(恋と色の道は命懸け)
1-初恋の多くは片思い
2-すべてが良く見えるのが恋
3-恋は隠しようがない
4-恋は人を狂わせる
5-聖人、君主といえども色情には溺れる
6-男女の仲は女が上手
7-恋に距離は関係ない
8-恋も金次第
9-熱烈な恋もやがては冷める
10-老人の恋を長続きさせるには

第8章 夫婦(夫婦になってお互いが成長する)
1-夫婦は不思議な縁で結ばれている
2-見合いは最高の知恵
3-どんな人にも似合いの相手がいる
4-夫婦は欠点を補い合うもの
5-結婚したら「三猿」がよい
6-夫婦は対等
7-夫婦は元は赤の他人である
8-亭主というものは
9-女房というものは
10-夫婦仲良くが幸福の源泉
11-家庭こそ安らぎの場である
12-夫婦喧嘩はほどほどに
13-夫も妻も浮気は危険だ

第9章 親子(親と子は切っても切れない間柄)
1-親にとって子は宝
2-親の愛は計り知れない
3-子供を甘やかしてはいけない
4-子は親に似るもの
5-親に似ない子も生まれる
6-幼少時代を見れば将来が判る
7-親の意見は聞くものだ
8-子を持って親の気持ちが判る
9-子供は自分の食い扶持を持ってくる
10-孫ほど可愛いものはない

第10章 老い(老人となる)
1-老いはすべての人にやってくる
2-尊敬される年寄りになれ
3-老いても向上心が大切だ
4-頑固者、耄碌爺と呼ばれるな
5-老いてからの色の道は、ほどほどに
6-遺言書は必ず書いておくこと

第11章 終着駅(終点ですよ)
1-万人に終着駅がある
2-死んだらおしまい
3-若くても死ぬことがある
4-苦しくて死にたいこともある
5-苦しまずに死にたい
6-死んだ人は良い人
7-あの世はどんなところか

2.著者の略歴 :宗教・経営・心理学を学び、ヒトに関わり続ける
酒井正敬(さかいまさゆき)
人事コンサルタント、株式会社三和経営研究所代表取締役所長。
1938年、東京・御徒町に生まれる。
天理大学、産業能率短期大学、早稲田大学を卒業。
1980年、株式会社三和経営研究所を設立し所長に就任、人事コンサルタントとして独立。
500余社の企業に関与すると共に、研修や講演、執筆等を積極的に行い、「採用指導の第一人者」と称される。

著者は戦前に生まれ、7歳(国民学校1年生)の時に疎開先で終戦を迎える。
熱心な天理教信者だった母の影響を受け、大学では比較宗教学を専攻し、特にイスラム教に関心を持つ。
卒業後、経営コンサルタントを志す。経営学を学ぶために産業能率短期大学に入学、同時期に、コンサルタント界の大御所的存在とされる田中要人氏の事務所に見習所員として入所する。
8年後、32歳で人事コンサルタント、人材採用の専門家として独立する。(その前年、1971年に中小企業診断士として登録する。)
1978年、39歳の時、当時としては珍しい「転社の勧め」に関する本を執筆、「再就職に成功する本」(KKベストセラーズ)が大当たりする。自身の専門分野である人材採用について考える中、心理学を学ぶために早稲田大学へ学士入学、同じ頃に株式会社三和経営研究所を設立し代表取締役所長に就任、現在に至る。

3.書評 :数多くの諺に、著者自身の経験や人生観を投影している
本書は著者48冊目の本。これまでの主な著作は以下の通り。

1978年:再就職に成功する本―いまの会社を辞めたい人へ(KKベストセラーズ)
1980年:人材活性化216の法則―会社経営見直しの知恵(ぎょうせい)
1981年:再就職キット心得帖(日本コンサルタントグループ )
1987年:転職マニュアル―人には聞けない成功の秘訣(KKベストセラーズ)
1989年:テキパキ感じがいい人間になる本―社会人入門300のポイント(中経出版)
1990年:ほしい人をどう採用(とり)ますか―人の時代の人材獲得マニュアル(二期出版)
1991年:「あかるい会社」に人は集まる―人が採れて、定着するグッドカンパニーのつくり方(オーエス出版)
1993年:移った会社で成功する法―50歳からの「出向、転職、再就職」読本(ダイヤモンド社)
1994年:ミドルの転職!―再就職さがしから試験突破までを成功させる法(日本実業出版社)
1997年:ビジネス・人生特訓365日―一日一訓、自分を磨く(清話会出版)
1999年:30歳までにやるべきこと―精鋭社員になるための基本心得と実務(清話会出版)
2000年:インターネット時代の“超”就職学―大学に入ったらすぐに読む・準備する(明日香出版社)
2002年:転職者のための面接のチャンスをつかむ「職務経歴書・履歴書」の書き方 (PHPエディターズ・グループ)
2003年:ビジネス人生を充実させる300字の自己啓発(清話会出版)
2010年:採用のプロがそっと教える「伸びる人」「伸びない人」の共通点(PHP研究所)
2018年:元気になる「読み薬」(PHPエディターズ・グループ)

上記のうち、「転職マニュアル」や「ビジネス・人生特訓365日」などは、新版として再発売されている。
また、上記のほかに、
「内定を決める! 面接の極意 (高橋の就職シリーズ) 」
「面接の大原則―基本を押さえて内定を取る!」(いずれも高橋書店)
「就職活動トラの巻―OB訪問から内定辞退まで」(明日香出版社)
など、毎年内容をアップデートし刊行される就職・転職関係の著書も多数執筆している。

著書を一覧すると、著者が一貫して人事・採用のプロとしてキャリアを歩んできたことや、「人材活性化」「あかるい会社」「人生特訓」「ビジネス人生」などのタイトルからは、良いキャリアと良い人生の両立・実現のため、著者が経営者側・従業員側双方のコンサルティングに永く関わってきたことが感じ取れる。なお、本書の内容はそのほとんどが人生に関わるもので、経営や就職に関わる記述はほとんど見られない。
ここでは本書に含まれる約300の諺のうち、著者が比較的多くの字数を割いて説明しているものを幾つか取り上げる。著者による諺の選び方や、その説明・解釈からは、著者のどの様な人生経験を積み、その関心の対象が何であるかが、幾許か読み取れると思う。

人ほど怖いものは無い
(第1章 人間(人間というもの)>1-人間はピンからキリまで)
著者はこの諺について、特殊詐欺の例をあげて「この世で一番恐ろしい生きものは人間」だと説明している。特殊詐欺は年配の方が被害に多く遭う犯罪であり、著者の関心が高いようだ。

色欲は命を削る斧
(第1章 人間(人間というもの)>5-人間は五欲の塊)
本書には男女関係を取り上げた諺が多く採用されており、それらの説明も比較的多くの字数が割かれている。また、若い男女だけでなく、老年期の男女についても頻繁に言及しており、昔の諺(若い男女を想定したもの)について、しばしば、現代日本の高齢化社会の文脈で再解釈を試みている。

名誉を失うは目を失うに同じ
(第1章 人間(人間というもの)>5-人間は五欲の塊)
著者は五欲を、①財欲、②色欲、③飲食欲、④名誉欲、⑤睡眠欲、としており、特に名誉について、人が最後に(しばしば最も年老いてから)欲するようになる「困ったもの」としている。

勝てば官軍負ければ賊軍
(第2章 生きる(人生は長いようで短い)>1-人生は積極思考で生きよう)
著者はこの諺を好意的に解釈している。まず、「とにかく勝たねばならないのです。」と主張した上で、「言い訳をするようでは敗北者です。」と続き、最後は「とにかく、人生を生き抜くためには、積極思考でなければなりません。消極思考では、この世を生き抜き、勝ち残ることはできないのです。」と結んでいる。

禍福は糾える縄の如し
(第2章 生きる(人生は長いようで短い)>3-人生は幸福と不幸が同居している)
著者は説明文において、幸運・不運という運の支配を「人生の妙味」「状況が変化していくのが人生の面白いところ」と前向きに捉えている。この諺に限らず、本書には、ポジティブに生きることで幸せになろう、という著者の思想が通底していると感じる。

仏も昔は凡夫なり
(第3章 日本人の宗教観(日本人と宗教)>3-仏というものは)
ここでは、大学で比較宗教学を専攻した著者らしく、凡夫だった釈迦が悟りを開き仏になる過程を詳しく記述している。また、凡夫(だった釈迦)が悟りを開いたとは言え、「凡夫が悟りに到達することは至難の業です」と記している。

金に糸目を付けぬ
(第4章 万事金の世の中(金ほど強いものはない)>2-金持ちになると)
本書では珍しく、企業や事業を例に用いて説明している。
「企業は事業を行う場合に予算を決めます。予算内で儲けが出ないと判れば、事業を中止します。」
「しかし、金があり余るほどある会社の場合には、金に糸目を付けずに続行して、遂にその事業を成功させ、その分野の主導権を得た例もあります。」

金さえあれば天下に敵なし
(第4章 万事金の世の中(金ほど強いものはない)>5-金で天下を動かせる)
他の章のテーマと比較すると、お金に関する諺に対する著者の説明文は短くあっさりしている。「金さえあれば天下に敵なし」は、そのなかでは説明文が長かった諺である。「金力で人の心を買える。昔も今もこの原理は変わりません。政治も経済も、社会も会社もこの金力で動いているのです。」という著者の主張には強いインパクトを感じる。

心腹の友、莫逆の友
(第5章 友人や知人(友人や知人は必要だ)>1-友には「心友」と「親友」がある)
著者によると、「心を許しあった友」「心底信じあった友」が心友であり、これ以外の親しい友は、親友である。一生のうち心友が一人でもできたら幸運である。

類は友を以て集まる
(第5章 友人や知人(友人や知人は必要だ)>3-同じような考えの人が友となる)
著者はこの諺の説明文において、「話の内容」や「知的レベル」などが同じ若者同士がグループになっていることや、会社にはピンからキリまであり、それぞれの会社が、自社のレベルにふさわしい人を採用することなどを例示している。「採用指導の第一人者」と称される著者ならではのやや辛口の洞察である。

男は妻から
(第6章 男と女(男と女がいるから人類は続いた)>2-男と女の違い)
この諺の説明文で著者は「男は女房次第で、駄目にもなるし、出世もする」と述べている。また「女房の力」の例として、見性院(戦国時代の武将、山内一豊の正室)をあげている。なお、見性院は「内助の功」の語源とされており、そのエピソードが戦前の国定教科書に載っていたため、国民に広く知られるようになった。

酸いも甘いも知り抜く
(第7章 恋と色情(恋と色の道は命懸け)>10-老人の恋を長続きさせるには)
著者は、もともと「経験を積み、世事・人情によく通じている(広辞苑)」という意味のこの諺について、(若い頃に恋愛を経験した男女による)老いてからの恋、という文脈で用いた上で「初恋ではないので大丈夫でしょう。」と結んでいる。

仲人は草鞋千足
(第8章 夫婦(夫婦になってお互いが成長する)>2-見合いは最高の知恵)
著者は「全国的組織の仲人会」について、やや長めの説明文を添えている。著者は「人生、一度は結婚すべきだ」という考えで、特に見合い結婚について、離婚率が低いと主張するなど、その良さを強調している。

親の甘茶が毒となる
(第9章 親子(親と子は切っても切れない間柄)>3-子供を甘やかしてはいけない)
著者は本章を通じて、親の盲愛は子供のためにならないという教訓を繰り返し述べている。ちなみに、本書には親子に関する記述が比較的多い一方、事業承継を想起するような記述はほとんど見受けられず、中小企業診断士が執筆した書籍としては、少々意外に感じられる。

老いらくの恋
(第10章 老い(老人となる)>5-老いてからの色の道は、ほどほどに)
著者は、この諺が「みっともない」「とんでもない」と否定的に捉えられてきたと述べつつ、人生百年を迎える時代背景を踏まえて、老人の恋を肯定的に捉えている。なお、入籍すると遺産相続の問題が生じる、など専門家らしい指摘もしている。

死んでも書いたものが物を言う
(第10章 老い(老人となる)>6-遺言書は必ず書いておくこと)
この諺の説明文において、著者は「私のような職業をしていると・・・」と自身の経験を踏まえ、遺言書の重要性・効果を述べている。

死んだ先を見た者ない
(第11章 終着駅(終点ですよ)>7-あの世はどんなところか)
本書最後の章では、著者は死に関わる一つ一つの諺に対して、比較的多くの字数を費やしている。「死んだ先を見た者ない」は本書最後の諺だが、その説明文では「人は神の御末」という、著者が第1章で取り上げた諺を再掲している。「人は神の御末」は著者の好きな言葉であり、その説明からは、著者の人生観や、著者が周りの人々に向ける眼差しが読み取れる。

以上

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