城西国際部主催、「グローバル化の実態を知る体験ツアー」報告レポート
令和6年2月24日(土)に首記体験ツアーを開催いたしましたのでご報告致します。毎年恒例のツアーですが、今年は「東京の観光案内所巡り」ということで、増え続けるインバウンド対応に熟達した観光案内所3か所を訪問し、現場の第一線で奮闘するスタッフの皆様から日常の業務や苦労話をお聞きし、インバウンド観光の現状や課題を考える機会と致しました。
当日は前後一週間ほどに渡って荒天の中、なぜかこの日だけ晴天に恵まれ、募集開始から即日満員御礼となるほど士気の高いメンバー20人が、インフルエンザや新型コロナが流行る中キャンセルも一切なく、学びの一日を共にしました。
ご参加いただきました皆様、またお忙しい中、私どもの企画に惜しみなくご協力いただきました関係訪問先の皆様、改めて厚くお礼を申し上げます。
城西国際部長 中原健一郎
浅草文化観光センター
中村寛
最初に訪れたのは、浅草雷門前の浅草文化観光センターです。最初にエレベーターで8階まで上がり、北東角にある板張りの展望テラスから周辺の景観を楽しみました。北側には眼下に雷門、浅草寺が見渡され、その間に伸びる仲見世通りは年末の上野アメ横通りかと見まがうほどのごった返し状態。東に目を向ければ東京スカイツリーと、手前にビール会社の本社が鎮座(金の炎オブジェは左端だけ見えました)。付近は何度も通ったことがあるのにこんな展望スポットがあったとは全く知りませんでした。
次に階段で4階の会議室まで降り、所長の青木氏、案内業務責任者の呉氏、サービス課長の美浦氏からセンターの業務内容や来館者数について説明を受けました。当センターは年中無休で英語・中国語・韓国語での対応が可能で、Wi-Fi設備が備えられており、日本政府観光局JNTOの外国人観光案内所の認定制度でカテゴリー3(常時英語による対応が可能で、英語以外にも2言語以上での案内が常時可能な体制がある、他)に認定されている都内13か所の観光案内所の一つです。主な業務は台東区と浅草に関する情報発信で、ケガや病気の際には東京都が運営する6か国語対応の医療機関紹介サービスも案内しています。
来館者数はコロナ前の2018年度1,205千人(月平均100千人)に対して2023年度は1月までで1,120千人(月平均112千人)、うち外国人は2018年度282千人(全体の23%)に対して2023年度が同じく1月までで370千人(同33%)といずれもコロナ前を回復、中国人団体客が戻ってくれば更なる増加が見込まれます。ここではインバウンドの勢いを実感することができました。
浅草での昼食
光り物好きの酢浪人
浅草文化観光センターのお話をうかがった後、浅草の街を散策して昼食です。二班に分かれていずれも外国人観光客に人気の和食店を訪ねます。筆者の班が向かったのはハラール寿司のお店「すし賢」です。
ムスリムの方が食べられないとされているものは、豚肉、アルコール、しかるべき手順に沿った処理がなされていない食肉、血液などです。魚介類はそもそもハラールだからお寿司は問題ないのでは、と思いがちですが、実は調味料が問題です。東アジアの穀醤文化圏に属する日本は、穀類を原料とする発酵調味料の宝庫。お酒と同じく穀類からの発酵ですから、発酵過程でアルコールが生じます。醤油、酢、みりん、味噌、こうした調味料を使う和食は、通常は微量とはいえアルコールを含んだ仕上がりになるため、ハラールではないのです。
「すし賢」は東京で最初にハラール対応をしたお寿司屋さんです。醤油、酢などの調味料にアルコールを含まないものにしただけでなく、米、ガリ、肉などすべての食材にハラールのものを使用して、ハラール認証も取得しています。そのため、ムスリムの方も安心して日本の寿司文化を楽しめるということで大人気となっています。この日、私たちは二階の座敷に案内されたのですが、一階のカウンター席は、ヒジャブを巻いた女性などほぼ全員が東南アジア系のムスリムと思われる方たちで満席でした。
さて、肝心のお寿司です。ランチ握り10貫、みそ汁付。まぐろ、サーモン、ハマチ、エビ、イカ — ひと通り揃ったネタ、赤酢がほどよく利いた酢飯、色薄だけどしっかりした塩味の醤油、と、ハラールのことなど全く意識させない美味しい握りでした。
これでお値段は税込み1,540円。「すし賢」はリーズナブルな値段のお寿司屋さんで、日本のサラリーマンにとって、この値段だと普通かやや高めのランチということになるのでしょうが、外国から来た観光客にとっては、たったの10ドルで本場の本格的な寿司を堪能できるというのは「何かの間違いでは」と思いかねないレベルなのではないでしょうか。本当にこれでよいのだろうか、と感じてしまった昼食でした。
墨田区観光協会
鼠小僧次郎八
昼食を楽しんだ後は、すみだ北斎美術館の会議室において墨田区観光協会事務局長の平尾氏よりお話を伺いました。
墨田区では2022年以降、移動式観光プロモーションカー「すみーくる」を活用した観光案内を行っています。移動式観光プロモーションカーは山梨県富士吉田市等、地方部では導入事例があるものの、東京では墨田区が導入した唯一の自治体です。区内には両国に観光案内所がありますが、こうした定位置での「迎える案内」にとどまらない「出迎える案内」を可能としています。
「すみーくる」は小型トラックの荷台を改造したもので、ボディには北斎が描いた絵(あの有名な水しぶきの大波や富士山等)と地元の福祉施設の方々が描いた絵(スカイツリーや大きなお相撲さん)が見事に融合され、墨田区らしさを表現しています。スカイツリー、両国国技館、すみだ北斎美術館など数多くの観光施設がある墨田区内各地に「すみーくる」が出没し、訪問された方向けにさまざまな情報発信を行っています。また、町内会の夏祭りでパレードの先導車として活躍する等、街の活性化にも一役買っています。今後は、防災や災害時の救援活動等、社会課題解決も視野に入れ、ますます活躍の場を拡大していくことを検討しているそうです。
「すみーくる」が各地に出没することでさまざまな人との新たな出会いがあり、その会話の中で新たなニーズを捉え、次の活動に繋げていく、こうした取り組みが継続的に実施されていること、また、関係する区の職員の方々が楽しみながら取り組まれていることが大変印象的でした。
東京観光情報センター
野村純一
最後の訪問地は都庁1階にある東京観光情報センター/全国観光PRコーナーです。(公財)東京観光財団の課長の栁沼氏、情報センターのマネージャーの遠藤氏にご応対・説明をして頂きました。
東京観光情報センターは都内に5か所(他、京成上野、羽田空港、バスタ新宿、多摩)の拠点があるうちの一つで、東京全体の観光案内、ひいては日本全体の旅程相談まで対応しているのが特徴で、当案内所の来訪者は概ね一般の方々が多く、特段の関心・目的を持たずに立ち寄る人も多いとのこと。来訪者数は平均 1.5万人/月」程度であり、日本人と外国人の比率は概ね半々だそうです。
センター内にはパンフレット(東京23区、多摩地区、島しょ部を網羅)の設置・配付から、イベント情報の展示・案内(壁面展示、コンシェルジュの案内)、QRコードによる観光情報提供、動画展示で島々等の美しい風景の紹介もありました。
ユニークな展示としては、<Where are you from?>のコーナーがあり、来訪者が出身国の欄にシールを貼るようになっており、本当に世界各地の人々が当施設を訪問していることが分かりました。
お隣の全国観光PRコーナーでもスタッフが外国人対応を行っており、ふらりと立ち寄って「JRパスで何処へ行くのがよいか?」などの問い合わせの対応をしています。相談時間には制限を設けていないため、30分以上に及ぶこともあるそうです。各県や市町村等が一週間程の特別展示(当日は山形県天童市)を開催するコーナーが内部に設けられており、特産品の販売なども行われています。
こちらでの応対は「英語」「中国語」「韓国語」で行っており、アプリやQRコードによる対応、また筆談ボードや高さの低いテーブルでバリアフリーにも対応していることは驚きでした。
全体のお話の中で印象的だったのが、やはり外国人にとって(案内をするスタッフにとっても同じく)一番の問題は言語と文化の壁であるとのことで、例えば公共機関などの遺失物の対応窓口は日本語のみの対応であったり、予約は多言語だが支払になると日本語のみ、といったシステムも日本には依然として多く、外国人には対応困難となっています。
応対をして頂いた栁沼氏・遠藤氏から懇切な説明を受け、感謝申し上げます。